第28話 アーロの奥の手
ドラを見送った三人は生活必需品を買い足す為に、再び街へ出てきていた。
人混みでクッカがはぐれないように、一日アーロが手を繋いで歩いてくれた。
人混みの中は歩くだけで一苦労で、幾つかの商店を梯子して買い物をした小さなクッカはすっかりヘトヘトだ。アーロに手を引かれながらうつらうつらし始めたので、アーロはクッカを抱っこした。アーロもそれなりに疲れていたが、こればかりは仕方がない。
ヘンリクはふと振り返って、そんな二人に気が付き立ち止まる。
「ちょっと早いけど、夕飯でも食べて帰ろうか。
アーロ、重いだろ? 交代しようか」
第二次成長を迎えてもいない子供のアーロが同じ子供のクッカを抱っこしている事を気遣ったのか、それともアーロの肩に荷物のように担がれているクッカを気遣ったのかは分からないが、ヘンリクはアーロに交代を申し出た。
アーロは首を横に振って微笑んだ。アーロの顔は嫌々やっている顔ではなく、充実感に満ちた顔をしていた。
「バディなので……」
そう短く答えたアーロの頭をヘンリクは撫でた。
一行が入ったのは、一軒の定食屋だった。夫婦と思われるおじちゃんとおばちゃんの二人で切り盛りしている家庭的な店だった。
「あ…… いい匂いする」
定食屋に入ると肉の焼ける匂いやソースの香ばしい匂いが漂い、クッカはその匂いで目を覚ました。
まだ、完全に日が落ちていない夕方だからか、店には空席があり、三人はすぐに座ることができた。
ヘンリクは慣れた様子で、おばちゃんに本日のオススメを注文した。
しばらく待つと、クッカの前にはチーズの乗ったハンバーグ定食、ヘンリクとアーロの前にはステーキ定食が出てきた。
アーロはクッカと同じハンバーグ定食ではなく、ヘンリクと同じステーキ定食が出てきたので、それだけでこの店が大好きになった。
三人は創世の女神に感謝してから、定食を食べ始めた。
「明日から早速仕事を始めるけど、その前にお互いの特技を共有しておこう。
私は氷魔法が得意でよく使うよ。あとは簡単な回復魔法なら少しは使える。大怪我は治せないから注意してくれ」
クッカとアーロはほっぺを定食でパンパンにして頷いた。
次はクッカが説明した。
「私は色々な属性の魔法が使えるよ。試したことがあるのは、風に火に水に回復。でも他にも使える気はする。今のところ水魔法がお気に入りかな。お風呂で遊ぶと楽しいからね。
あとは斧術もひげパパに習ったから、少しだけできるよ。ひげパパの足元にも及ばないから、どの程度役に立つかはまだ分からない」
最後にアーロだ。
「俺は双剣を使うんだ。人魚戦で見たから分かるよね? 学園で剣術の成績は首席だったんだ! だからちょっとは自信ある」
「ふむふむ」
クッカは適当な相槌を打った。首席と言われても五歳のクッカはピンとこない。
学園での剣術の成績を話せば、クッカもヘンリクも驚いてくれると踏んでいたアーロとしては不満足なリアクションであった。
アーロはちょっと悔しくなって奥の手を披露する事にした。
「あとは、精霊術も使えるんだぞ!」
「へぇ! それは凄い! 見せて見せて!」
これにはクッカも食いついた。
精霊術とは精霊を使役して魔法を使う術の事である。一般的な魔法の違い、魔力を消費しないで使えるため、かなり便利な技である。魔法以上に遺伝的要素が影響する技で練習すれば誰でも使える技ではなかった。
クッカはそのくらいの精霊術の知識はあったが、実際に精霊術を見たことはなかったので、どんな精霊が出てくるのか、わくわくしながらアーロを見つめた。
「おいで、キヴィ」
アーロが精霊の名前を呼ぶとテーブルの上にゴトンと音を立てて、石が落ちてきた。よく見ると短い手足が生えた石だった。
「……この子は何ができるの?」
もっと立派な精霊が出てくる事を勝手に想像していたクッカは持っていたフォークで石の精霊をツンツンとつついた。
「キヴィは小石が投げられるよ。可愛いだろ」
「……」(小石を投げる事が戦闘の役に立つのかな……)
アーロが褒めるとキヴィはクルクルと得意げ踊った。どうやらアーロとキヴィは相思相愛の関係にあるらしい。
「ほ、他にも出せるんだよね?」
「出せるよ。おいで、トゥリチットゥ」
次にアーロが呼び出したのは小さな赤いトカゲだった。アーロの人差し指の上にちょこんと乗っている。
「この子は何ができるの?」
「火が出せるよ」
トゥリチットゥは口から小さな火を噴き出した。
「マッチでよくない?!」
クッカはとうとう我慢できずに思った事を言ってしまった。
「クッカ、精霊使いはかなり便利だし、この年齢でニ体も精霊を使役しているのはかなり凄い事だよ」
とヘンリクは言うので、アーロは天井を見上げて天狗になっている。
――凄い事だとしても役に立たなきゃ意味がない。
クッカの考えを読んだのか、ヘンリクは
「クッカ、トゥリチットゥに火を与えてみなさい」
と言った。
クッカは半信半疑で自分の指先に火の玉を出し、トゥリチットゥに近づけてみた。
するとトゥリチットゥは長い舌を伸ばしてペロンと火の玉を飲み込んでしまった。トゥリチットゥはお腹を大きく膨らませ、テーブルの上で丸くなった。
「精霊は育てると成長する事ができる。毎日餌をあげて育てたら、アーロは将来大精霊使いになっているかもしれない」
「……」
(即戦力にはならないと言うことか……)
クッカは考える事を止めて、ハンバーグについていたポテトをむしゃむしゃと食べた。




