第26話 ヘルミとお別れ
「お待たせしました。こちらが、物件の資料です」
先に戻ってきたのは不動産屋のおじいちゃんのドラだった。ソファの前のテーブルに資料を並べていく。
「二人とも何か希望はあるかい?」
とヘンリクがクッカとアーロに聞いてくれた。
「海の見えない場所にしてください!!」
アーロは食い気味で答えた。可哀想なアーロはすっかり海が嫌いになってしまったらしい。
「では、こちらはいかがでしょうか。去年建てたばかりの新しい建物ですが、街外れでケト草原に面した物件ですので、家賃はお安くなっています」
「うん、いいね。じゃあここにするよ」
「ありがとうございます。ではこちらの書類にサインをお願いいたします」
ヘンリクはドラの出した書類にサインした。
「この家賃はどこから支払われるのです、先生……私、五歳児なので持ち合わせがありません」
クッカはふと心配になって聞いてみた。
「さてはクッカは陛下の話をちゃんと聞いていなかったね。勇者と聖女の住居費や生活費、冒険にかかる費用は全て国に請求をまわしていいんだ。うちの国は他国と比べてその辺が恵まれているから、変に贅沢なことをしなければお金の心配はしなくていいんだよ」
「すご!」
(それ以外にお給料も出るのでしょ? 恵まれ過ぎでは?)
勇者や聖女になる為にわざわざ専門の学園に通う人がいる理由をクッカは改めて理解した。どうやら、勇者と聖女はかなり恵まれた職業のようだ。
ヘンリクはクッカの気持ちを読み取ったかのように補足した。
「ただし、命懸けの仕事だから死のリスクは常に付きまとう。あと、他国だと冒険者が自分で討伐した魔物だったり、採集した素材の権利は冒険者の物だが、うちの国は全て国の物として納めなきゃならない決まりがある。自分で素材を売ることができないんだ。その代わりランクが上がり固定給が上がる仕組みな訳だ」
「え? それってやる気が半減しませんか? 自分で倒した魔物の素材は高く売りたいと思いません?」
クッカは純粋に気になったので質問する。
「まぁ、そういう考えもあるな。うちの国の制度のメリットは新人が食いっぱぐれたり、装備代にお金をかけられなくて危ない目に合わないようにするための制度なんだ。ベテランの稼ぎも国益の為に分配するって考え方だな。これも詳しくは追って説明するよ」
店の奥から大急ぎでカウッパ会長が戻ってきた。
「こちら、契約書です! 内容を確認して、クッカちゃんとアーロ君のサインを書いてね」
クッカとアーロは二人で契約書の内容に目を通した。要約すると、契約期間中はカウッパ商会の宣伝活動に協力すること、契約期間は一年毎の更新になること、契約期間中はバディの解散をしないこと、商会の不利益になるような不祥事があった場合は賠償金が発生すること等が書かれていた。
「俺はこれで問題ないよ」
「私も大丈夫」
クッカとアーロは二人で顔を見合わせて頷いた。二人で順番に契約書にサインをした。
「あぁ、ありがとうございます! では、契約金はお二人のお口座に振り込んでおきますね! 今後の取材とかの相談は後日相談にいくからね」
カウッパ会長はホクホク顔だ。会長が満足してくれたのが嬉しくて、クッカとアーロもつられてホクホク顔だ。
「では、ご契約いただいた物件までご案内させていただきます」
ドラの案内で一行はカウッパ会長と別れ、魔大陸での初拠点に移動するのであった。
※
ドラが案内してくれたのは本当に街の外れにある一軒家だった。木造の二階建てで、仮の住まいには十分の広さであろう。周りに建物も無く、ご近所付き合いを気にする必要は無さそうだ。
家の前にはどこまでも続く広い草原が広がっていた。
(ここならもういいかな……)
クッカは自分のローブの中に潜り込んでいたヘルミをほじくり出し、草原の上に置いた。
「ヘルミ、今まで一緒にいてくれてありがとう…… 魔大陸に着いたから、好きな所に行っていいんだよ。もう、間違って船に乗ったりしたら……だめなんだからね……」
クッカは鼻水をすすりながら、ヘルミに別れを告げた。
アーロもヘルミにお別れの挨拶をする。
「ヘルミ…… ヘルミがいなかったら、俺、船で死んでたと思う…… もう会えないと思うと寂しいけど、元気で——ん?」
ヘルミはアーロのお別れの挨拶を無視してクッカの足からクッカによじ登り、クッカのローブの中に収まった。潤んだ瞳でクッカを見つめてくる。
「キュウ!」
ヘルミは甲高い声で鳴いた。どうやら離れたくないらしい。
「ヘルミぃ!」
アーロがヘルミのモフモフの頭を撫でる。
ヘルミはクッカの手前大人しくアーロに撫でられていたが、ニョキッと牙が出て口の上の方がぴくぴくしていた。
「さぁ、お弟子さんたち、家の中の説明もするからおいで」
「「はーーい!」」
ドラの優しい呼びかけにクッカとアーロは元気に返事をして、皆で家に入った。




