第22話 魔大陸にたどり着けないだと!?
「うぅ…… 気持ち悪いぃ……」
船旅が5日目を迎えた朝。クッカはアーロの声で目が覚めた。クッカは二段ベッドの上の段からむくりと起き上がって、下の段のベッドを覗いた。
「アーロ、どうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫じゃない…… ヘルミがいない……」
ヘルミならクッカの服の中に潜り込んでいる。何かに怯えたようにブルブルと震えていた。
「ヘルミが何か怖がってるみたい…… どうしたんだろう……」
クッカは服の上からヘルミを撫でた。それでもヘルミの震えは治まらなかった。
「クッカ、こっちに来て見てごらん」
ヘンリクは客室についた丸窓を覗きながらクッカを呼んだ。クッカは二段ベッドから飛び降り、ヘンリクと一緒に外を見た。
窓の外には真っ白な霧が立ち込めていた。霧が深くて海がどうなっているのか全く分からない。
「ヨーラだったら、こんな霧は通らない。何かあったんだろう。クッカ、アーロ。武器を持って甲板に行くぞ」
「了解!」
クッカはすぐに斧を背中に背負って準備する。アーロはよたよたと起き上がって、覚えたてのキュアで船酔いを治してから準備した。
* * *
甲板に出るとヨーラと風曲の二人が何か話をしていた。
「おはよう。何かあったみたいだな」
ヘンリクが先に来ていた三人に状況を聞いた。
「あぁ、おはようヘンリク。さっきから魔大陸に向けて船を走らせているんだが、どうにもおかしいんだ。プウとクッカが手伝ってくれたから、そろそろ到着してもおかしくない筈なんだけど……
昨日の夜にこの霧に入ってから、一向に霧の中を抜けられないんだ。このままだと魔大陸にたどり着けない」
「「えぇ!!」」
魔大陸にたどり着けないと聞いたクッカとアーロは声を揃えて驚いた。
ヨーラにはこの状況の原因が分からないらしい。
「俺たちも外の様子がおかしいので出てきたんです。どう思います? ヘンリクさん」
プウもヘンリクにアドバイスを求めた。
「恐らく人魚だろう。魔大陸で一度だけ遭遇したことがある。霧を出して、船を迷わせる魔物だ。食料が尽きて、私たちが弱るのを待っているのだろう。こちらから攻勢に出よう。このまま待っていても向こうの思う壺だ。
風曲の二人は水上歩行は使えるかい?」
二人は首を振った。
「じゃあ、私たちで人魚を船に誘き寄せる。二人には船の警備と私たちの援護を頼みたい」
「分かりました」
ヘンリクはいつになく厳しい表情でクッカとアーロを見た。
「二人とも、初陣だ。心の準備はいいか」
クッカは背中から斧を抜き、くるくると回しながら構えた。顔はいつも以上に笑顔だった。
「待ってました!」
クッカは久しぶりに斧を構えて嬉々としている。
「そろそろ体を動かしたいと思ってたんです」
アーロはズボンで手汗を拭いてから、両手で二本の短剣を抜いた。
二人が怖気づいていないか心配していたヘンリクだったが、どうやら取越苦労だったようだ。ヘンリクはふっと息を吐いて、いつも笑顔にもどった。
「よし。上出来だ。水上歩行をかけてあげよう」
ヘンリクは呪文を唱えてから、自分とクッカとアーロに杖の先を軽く当てた。
クッカは自分の体が薄い膜のようなものに覆われた気がした。
「ついておいで」
ヘンリクが船から飛び降りたので、クッカとアーロもそれに倣って飛び降りた。
飛び降りると不思議なことに海の中に沈むことはなかった。アーロは水上を歩く初めての経験に感動すら覚えた。
「気をつけてね!」
船の上からラインが手を振っている。
クッカが元気いっぱいに手を振り
「行ってきます!」
と返した。まるで、遠足にでも行くような雰囲気だ。クッカは海の上をスキップしながら歩いた。




