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幼女聖女 〜ぷにぷにほっぺ聖女の冒険譚〜  作者: ポムの狼
第二章「バディ」

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第12話 バディ制度のメリット

「これは一体どういうことです!? なぜ芝生が凍っているのです!?」


 アーロが振り返るとそこにはクラス担任のラシットが立っていた。銀縁の眼鏡をくいっと上げて生徒たちの中に犯人がいるのかを見極めようとしている。


(ここで黙っていても、誰かから告げ口をされればすぐにバレてしまうな……)


 そう思ったアーロは、恐る恐る手を上げて白状した。

「先生…… 原因は俺です……」


「まぁ!……分かりました、事情を聞きましょう。他の生徒は教室に戻ってください。次の時間は教室で自習とします。アーロ、ついて来てください」




 * * *



 ラシットの研究室に案内されたアーロはラシットと向かい合う形で椅子に座った。


「休み時間の間に一体何があったのです? アーロ」


「実は……」


 アーロは先程クッカとヘンリクが学園を訪れていた事。クッカとアーロが喧嘩になってしまったこと。ヘンリクにバディ解消の手続きをするように言われたことをラシットに白状した。




「はぁ…… アーロ、それは良くありませんね。あなたの行いも悪いですし、あなたの将来のことを考えても良くないです……」


「……小さい子と喧嘩になってしまったことは反省していますが、俺はこれで良かったと思っています。俺はクッカとバディを組みたくありません」


 アーロはこの際だからはっきり言うことにした。今まで誰にも相談できなかった不満をラシットに打ち明けたのだ。ラシットは元聖女で、しかも生徒に優しくいつも親身になってくれる先生なので、自分の気持ちが分かってくれると思ったのだ。


「授業で散々教えたと思っていましたが、あなたは我が国のバディ制度を全く理解していないようですね」


「え……?」


「アーロ、授業で教えた筈です。なぜ我が国が他国と同じように冒険者ギルドを運営したり、三人以上のパーティ制を導入していないのか。答えてみなさい」


 ラシットの眼差しは厳しいものだった。


「……すみません。覚えていません……」


「そうでしょうね。覚えていたら、こんな愚かなことは絶対にしなかったでしょう」


 ラシットは声を大きくする事はなかったが、その声の調子からは明らかに怒っていることが伝わってきた。


「我が国のバディ制度は勇者と聖女がより安全に任務に取り組むため、我が国が独自に導入している制度です。

 他国では人数の縛りはなく、四人や五人程度のパーティを組んで魔大陸の探索を行っています。

 純粋に考えたら人数が多い方がいい。そう思いませんか? アーロ」


「……はい、そう思います」


 アーロも仮に四人パーティのうち一人がクッカのような幼い子供だったら嫌がらなかったかもしれないとこの時思った。他のメンバーでどうとでもなりそうだからだ。


「他国では、それで上手くいっているパーティもありますが、上手くいっていないパーティもいます。一人パーティの和を乱すような人間がいると、その人を追い出したり、事故を装って殺し金品を奪う非道な冒険者も中にはいます。命掛けの仕事ですから、箍が緩んでしまうのかもしれませんね。

 それを防止するのが、我が国のバディ制度なのです」


「どういうことですか?」


「二人組みのバディだと、仮にどちらかが不満に思ったら、バディを解消する事が殆どです。複数人で虐めたり、殺したりということが起きにくいのです。二人とも実力はあるのですから、一体一で戦えば仕掛けたほうが返り討ちにあうかもしれませんからね。

 バディは互いが命綱なのです。

 我が国でも、大規模探索の際は大人数のパーティ編成をすることがありますが、その時も必ずバディが一緒です。信頼できるバディがいれば、一人が裏切られたり、見殺しにされるのを防ぐ事ができます。我が国がバディ制度を導入しているのには、そういった理由があるのです」


「バディ制度導入の理由は分かりました……

 ですが、それなら尚更俺はクッカとバディを組みたくない。クッカに俺の命綱が握られていると思うと嫌です!」


「クッカは幼くとも神託で選ばれた立派な聖女です! しかも、指導役にヘンリクまで付いています! 一緒に活動してみて、相性が合わなかったということならまだ理解できますが、始まる前からバディ解消をしたらどうなるか想像出来ないんですか!?」


 ラシットはついに声を荒らげた。

 アーロはまさかラシットに怒鳴られるとは思ってもみなかったので、尻込みした。


「……分かりません」


「では教えて差し上げます。あなたがクッカとバディを解消したら、この後あなたとバディを組んでくれる人は絶対に現れません」


「!!」


「あなたが見た目や年齢で相手を判断する浅はかな人間だからです。そんな人に自分の命綱を預ける人など、絶対にいません」


 アーロはラシットにそこまで言われてやっと自分がしてしまったことの重大さに気がついた。

 このままでは勇者として任務に就くことができなくなってしまうということだ。


「エテラマキ家に勘当されても仕方がないことをあなたはしたのですよ。分かりましたか?」


 ラシットの声は冷たかった。


「先生…… 俺、どうしたらいいんですか……」


 アーロは目に涙を浮かべながら、ラシットに縋った。

 ラシットはここでやっと優しく微笑み、アーロの肩を叩いた。


「一緒に謝りに行きましょう。誰にでも間違いはある事です。エテラマキ家のご当主に知られると事が大きくなってしまうかもしれませんから、私が一緒に付き合います。子供の喧嘩として済ませてしまいましょう」


「でも、許してくれるでしょうか……」


 アーロの手は震えていた。


「大丈夫です。ヘンリクと私は一緒に仕事をしたことのある友人です。真摯に謝れば許してくれますよ。

 アーロ、あなたがもしクッカを五年守りきれば、それはあなたのキャリアになります。クッカはまだ幼いので、恐らく任期を終えたら一度聖女の仕事は降りる筈です。その時にあなたはクッカと共に作り上げたキャリアで新しいバディと組めば良いのです。分かりましたね」


 アーロは涙を流しながら、静かに頷いた。


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