第11話 元最年少勇者のアーロ
アーロは凍った芝生を見て、心臓の鼓動が自分の耳にまで伝わるのを感じた。
どうして、アーロがあんなにもクッカを拒絶したのかを説明する為には、二ヶ月前のアーロについて話をしなければいけないだろう。
「アーロ!! 昨日の神託であなたの事が選ばれたそうよ!! ありがとう、あなたは私の誇りだわ!!」
学園から自宅の離れに帰宅すると、母親のイラがアーロを抱きしめてそう言った。
「ほんとに、母さん?! すごいよ! 兄さんたちより二年も早いじゃないか!」
「えぇ、間違いないそうよ。あの人もあなたの事を褒めていたわ。職場の人にも褒められて鼻が高かったって言ってたわ」
あの人というのは、アーロの父親であるアハト・エテラマキの事だ。元勇者で現在は王宮で国政に関わる仕事をしている。
アーロの家族であるエテラマキ家は六人家族だ。
父のアハトに、本妻のヴィリヤ、側妻のイラ。
ヴィリヤの息子で長男のヴィエノ。
同じくヴィリヤの娘で長女のアイラ。
そして、イラの息子で末っ子次男のアーロである。
ちなみに、ヴィリヤとイラの仲は悪くはない。二人とも元聖女で苦楽を共にしたことのある仲だかららしい。なので父と母たちの仲は良好だ。
しかし、それが子供たちまでそういう関係でいられるかは別の問題だった。
ヴィエノとアイラは親の目の届かない所で、アーロをまるで家族の異分子であるかの如く邪険に扱った。二人がアーロを嫌うように、アーロも二人が嫌いだった。
兄と姉は数年前に勇者と聖女に選ばれ、家を出ていた。二人とも14歳の時に神託を受けたので、12歳で選ばれたアーロは二年も早く選ばれた事になる。
兄と姉の事が兎に角嫌いだったアーロとしては、これ以上嬉しい事などなかった。
「バディは誰になるのですか? 母さん」
「今、任命待ちの勇者も聖女もあなた以外にいないから、まだ分からないわ。どんな人がバディになるか楽しみね」
母はにこやかにそう言ってアーロの頭を撫でた。
次の日からアーロは学園中で時の人となった。
なにせ12歳は歴代最年少での勇者選出だからだ。
学園中の生徒や教師にちやほやされて、アーロは有頂天だった。
自分がこの世の中で一番優れた人間なんだとまで思っていた。
まだまだ心が未熟な12歳の少年が選ばれたのだ、そう思ってしまっても仕方がなかったのかもしれない。
しかし、アーロの幸せな時間は2週間という短い間で終わってしまった。
クッカが神託で選ばれたからだ。
あんなにちやほやしてきた学園の生徒は手のひらを返したかのようにアーロをからかうようになった。『元最年少勇者』と言って。
アーロが天狗になっていたのが、皆内心面白くなかったのだろう。
廊下を歩くだけで、他の生徒に
「よ! 『元最年少勇者』! 元気か?」
など、用もないのにわざわざ声をかけてくる奴らが大勢いた。
アーロはその度に俯いて顔を真っ赤にして悔しがった。
『お前達はまだ神託で選ばれてすらいないだろ!』
と言い返したかったが、言葉を腹の中に飲み込んだ。これ以上何かを言って、嫌われたり、より馬鹿にされるのが怖かったからだ。
アーロは自分の輝かしい出発の第一歩を汚したクッカの事が憎くて仕方なくなってしまったのだ。




