第10話 クッカ、初めての口喧嘩をする
女子生徒の声で周囲のざわめきが大きくなった。
「え!? あの子が噂の最年少聖女!?」「可愛い!」「ちょっと小さすぎないか」
など、皆好き勝手なことを言っている。
クッカは周囲の喧騒を気にせずにアーロの所まで全速力で走った。もちろんほっぺは上下する。
「はじめまして! クッカです! よろしくお願いします!」
クッカはアーロの前に立ち自己紹介をしたが、アーロの表情は依然として暗い。
「……あっち行けよ」
アーロはボソボソと小さな声でそう呟いた。
「え? なに?」
はっきり聞こえなかったクッカは聞き返した。
「あっち行けって言ってんの! このちびすけ!」
「なんですとぉ!!??」
まさかの拒絶にクッカはショックを隠せない。しかし、ちびすけと言われて黙っていることはクッカにはできなかった。
「……お前のとーちゃん…… 色黒マッチョ」
「ちびすけ、何言ってんだ…… もしかして、悪口のつもりか……?」
クッカの悪口はアーロにダメージを与えなかった。
次はアーロのターンである。
「いいか、耳の穴かっぽじってよーーく聞け、ちびすけ。俺は代々勇者や聖女を輩出してきた名門エテラマキ家の次男なんだぞ! だから、俺はお前みたいなちびすけのバディなんかに収まる器じゃないんだよ!」
「う、うちの父だって元勇者だぞ!」
クッカも負けじと応戦する。
「なんて名前の勇者か言ってみろ! どうせ大した活躍もしたことのない勇者だろ!」
「…………」
「どうした! やっぱり大したことないんだな!」
「……ひげパパ」
「え? ひげパパ?」
クッカはひげパパの名前を覚えていなかった。
(あっれぇ、なんだったっけ…… 駄目だ、ひげの印象が強すぎて、全く思い出せん!)
「そんなふざけた名前の勇者がいる筈ないだろ! さては嘘をついたな! お前はちびすけで嘘つきだ!」
「うるせぇ!!」
ドス!
「うっ!」
クッカの拳がアーロの溝内にダイレクトヒットだ。
アーロはあまりの痛さと強い吐き気にその場で膝を付いた。
「うあぁぁぁん! せぇんせぇ〜!」
クッカは泣きながらヘンリクの所まで走って戻った。
「……くそ、よくもやってくれたな…… !!」
アーロは息を飲んだ。
ヘンリクが大泣きしているクッカを抱き上げながら、笑顔でアーロを見ている。しかし、その表情とは裏腹にヘンリクからは冷気が漏れ出て、近くの芝生は凍りついていた。
「……アーロ、そんなにクッカが嫌なら正規の手続きを踏め。お前の自慢の両親に聞けば、すぐに分かるだろう。来週の任命式までに手続きしておけ。こっちもお前みたいな勇者は願い下げだ」
ヘンリクはそう言うと辺りを凍らせながら、クッカと共に勇聖学園をあとにした。




