第9話 英雄による復興
王国の中央広場は、人で埋め尽くされていた。
戦勝から一月。
凱旋はまだ終わっていない。
勇者レオンが演壇に立ち、剣を掲げる。太陽を反射した刃が、群衆の歓声をさらに煽った。
「我々は勝った! 魔王は倒れ、世界は救われた!」
拍手と歓声。
だが、その熱気の裏側で、別の音がくすぶっている。
――生活が、楽になっていない。
レオンの横では、聖女セリアが微笑み、戦士ガルドが腕を組んで睨みを利かせ、魔導士ユリアが書類を手にしていた。
「復興計画を発表します」
ユリアが一歩前に出る。
「まず、王都周辺の大規模再開発。象徴的な建造物を再建し、雇用を生みます」
「資金は?」
「国庫と寄付です」
ざわめきが走る。
復興計画は派手だった。
だが、現場の声は拾われていない。
翌日から、問題は表面化した。
工事現場に人が集まらない。
資材が届かない。
治安維持の名目で、ガルドの部隊が強引な取り締まりを行い、反発が生まれる。
「なぜ言うことを聞かない!」
「腹が減ってるんだ!」
怒号が飛び交う。
セリアは祈りを捧げ、レオンは現場を回り、励ましの言葉をかけた。
だが、励ましは食料にならない。
数日後、難民地区で暴動が起きた。
「食料をよこせ!」
「約束が違う!」
鎮圧はされたが、傷は深い。
宰相ベルナールは、額に汗を浮かべて報告を受けていた。
「……グランツでは、暴動は起きていないと?」
「はい。条件付きですが、仕事と配給が回っています」
「……なぜだ」
答えは、分かっている。
だが、口に出したくなかった。
英雄たちのもとにも、批判が届く。
「戦争は勝ったのに、なぜ暮らしは悪くなる」
「英雄様は、戦うだけなのか」
レオンは苛立ちを隠せなかった。
「俺たちは、国を救ったんだぞ」
「それは分かっています。ただ……」
部下の声は歯切れが悪い。
一方、グランツ。
アレンは報告書に目を通し、エレナからの情報を聞いていた。
「王国で、復興計画が破綻し始めています」
「でしょうね」
「……何もしないのですか」
「何かすれば、責任がこちらに来ます」
アレンは静かに言う。
「彼らはまだ、“自分たちで失敗する権利”を持っています」
夜。
王国の街では、灯りが減っていた。
戦争は終わった。
だが、英雄たちはまだ知らない。
本当に問われるのは、
――勝ち方ではなく、終わらせ方だということを。
そしてその問いに、答えを持つ男は、すでに国境の外にいる。
(第9話 了)
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