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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜だが、唯一の”後始末役”を失った国は、英雄ごと自滅していった〜  作者: 風牙シオン


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第10話 条件交渉

 王国からの使者が到着したのは、雨の降る朝だった。


 城門に掲げられた紋章を見て、兵士たちがざわつく。

 それはかつて、この国を見下ろしていた大国の印だった。


「……来ましたか」


 報告を受けたアレンは、書類から目を上げることなく呟いた。


「思ったより早いですね」

「かなり、切羽詰まっているようです」


 エレナの声には、感情が混じっていない。

 それが、事態の深刻さを物語っていた。


 応接室に通された使者は、二人。

 一人は宰相ベルナールの側近、もう一人は見覚えのある顔だった。


「……久しぶりだな、アレン」


 魔導士ユリア。

 かつて、英雄パーティの一員として功績を称えられていた女だ。


 アレンは軽く頭を下げただけで、席に着いた。


「要件をどうぞ」

「単刀直入に言う」


 側近が前に出る。


「王国は、復興に行き詰まっている。あなたの知見を借りたい」

「知見、ですか」

「助言だけでいい。直接関与しろとは言わない」


 アレンは、少しだけ考える素振りを見せた。


「条件があります」

「……聞こう」


 その瞬間、ユリアの表情が硬くなる。


「まず一つ。英雄パーティは、この交渉に一切関与しない」

「なっ――」

「二つ目。判断の責任所在を、文書で明確にすること」

「それは……」

「三つ目」


 アレンは淡々と続ける。


「私の名前は、公表しない。失敗した場合の責任も、私には帰属させない」


 応接室に、重い沈黙が落ちた。


 側近は唇を噛み、ユリアは信じられないものを見る目でアレンを見る。


「……ずいぶんと、冷たいな」

「現実的です」


 アレンは視線を逸らさない。


「あなた方は、“成功した時の名誉”だけを欲しがっている。失敗の責任を引き受ける気はない」

「そんなつもりは――」

「では、署名できますか」


 差し出されたのは、簡潔な文書だった。

 責任の所在、権限の範囲、失敗時の対応。

 どれも、曖昧さを許さない内容だ。


 側近は、震える手で紙を見つめる。


「……これでは、英雄の立場が」

「守られません」

「国民感情が」

「もっと悪化します」


 アレンは、はっきりと言った。


「ですが、国は生き残ります」


 ユリアが、ぎゅっと拳を握る。


「……レオンは、納得しない」

「でしょうね」


 アレンは、わずかに目を伏せた。


「だからこそ、あなた方はここに来た」


 長い沈黙のあと、側近は文書を畳んだ。


「……持ち帰る」

「それが最善です」


 使者たちは立ち上がり、重い足取りで部屋を出ていった。


 扉が閉まったあと、マルクが低く笑った。


「飲まねぇな、あれは」

「ええ」

「いいのか?」

「いいんです」


 アレンは、静かに答えた。


「彼らは、まだ“失う覚悟”が足りない」


 一方、王国。


 報告を受けた勇者レオンは、机を叩いた。


「ふざけるな! 俺たちを外すだと!?」

「だが、他に手は……」

「ないなら、力で押し切る!」


 ベルナールは、顔を青くした。


「それは……国際問題に」

「知るか!」


 こうして、王国は選択した。

 助言を受けることではなく、意地を守ることを。


 その夜、グランツの城では、静かな会議が行われていた。


「交渉は、失敗ですね」

「はい」


 リーゼの言葉に、アレンは頷く。


「これで、しばらくは来ません」

「……それで、いいのですね」

「ええ」


 アレンは、窓の外を見た。

 雨に濡れた街の灯りが、揺れている。


「彼らは、もっと失わないと理解しない」


 リーゼは、しばらく黙っていたが、やがて言った。


「あなたは、恨まれる道を選び続ける」

「それが仕事です」


 その言葉に、リーゼは微笑んだ。


 翌日、王国では復興計画の見直しが発表された。

 だが、現場の混乱は収まらない。


 英雄たちの威光は、少しずつ剥がれ落ちていく。


 グランツでは、戦後処理が粛々と進んでいた。


 条件交渉は決裂した。

 だが、それは終わりではない。


 ――本当の“ざまぁ”は、まだ始まったばかりなのだから。


(第10話 了)


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