表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜だが、唯一の”後始末役”を失った国は、英雄ごと自滅していった〜  作者: 風牙シオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
85/103

第85話 英雄の遺志

 輸送路襲撃から三日後、アレンは自ら北の国境へ向かった。


 クラウスが同行を申し出たが、最小限の護衛だけを連れて出た。数で威圧するのではなく、話をしに行くのだと、繰り返し言い聞かせた上での判断だった。


 丘陵地帯に近づくにつれ、風に乗って何かの音が聞こえてきた。剣を打ち鳴らす音、規則正しい号令。ただの野盗の集まりではない。


 北の丘陵に、旗が並んでいた。


 勇者団の紋章――色褪せてはいるが、間違いなく本物だ。その数、およそ二百。武装した集団が、丘の上に整然と布陣していた。統率の取れた並びに、護衛たちの間に緊張が走る。


「話し合いの余地は」


 アレンの問いに、先行した斥候が首を振る。


「使者は送りました。返答はこれです」


 差し出された矢の先には、布が巻かれていた。開くと、短い一文だけがあった。


 ――裏切り者に用はない。


 乾いた文字が、迷いのなさを物語っていた。アレンは、その布をしばらく見つめてから、静かに折りたたんだ。


 丘の上、旗の中央に、一人の男が馬に乗って現れた。大柄な体躯。傷だらけの顔。忘れようのない姿だった。記憶の中の彼より、さらに一回り大きく、そして荒々しく見えた。


「……ガルド」


 アレンが呟いた名前に、周囲の護衛が息を呑む。


 かつての勇者パーティの一人。捕虜交換を「情けをかけるな」の一言で突っぱねた男。あの日以来、消息は追えていなかった。


「久しいな、戦後処理官」


 ガルドの声は、丘の下まで届くほど大きかった。


「英雄が切り捨てられ、無能な役人がこの国を差配する。そんな世を、俺は認めん」


「私は役人ではありません。処理をしに来ただけです」


「同じことだ」


 ガルドは剣を抜き、天に掲げた。


「英雄の遺志を、俺たちが継ぐ。レオン様が示した道を、たとえ本人が消えようと、俺たちは歩き続ける」


 周囲の兵たちが、剣を打ち鳴らして応えた。歓声にも似た音が、丘全体を揺らす。


 アレンは、その光景を静かに見つめた。


「レオンは、この場にいないのですか」


「……それは、お前が知る必要のないことだ」


 ガルドの目が、一瞬だけ揺れた。アレンは、その揺れを見逃さなかった。だが、今この場で追及しても答えは出ない。


「あなたたちの目的は」


「この国を、英雄の手に取り戻す。お前たちのような、感情のない処理屋の手からな」


「感情がないわけではありません」


 アレンは、初めて声のトーンを変えずに、しかし強く言い返した。


「ただ、感情で判断を曲げないだけです」


「その違いが、俺には分からん」


 ガルドは剣を鞘に収めた。


「三日やる。全ての処理権限をこの国から撤収しろ。さもなくば――次に燃えるのは、輸送路ではない」


 馬首を返し、丘の向こうへ消えていく。


 残された沈黙の中、リアーヌが震える声で言った。


「本気ですか、あの人」


「本気でしょう」


 アレンは丘を見上げたまま答えた。


 戦後処理官は知っている。


 英雄の名を掲げる者ほど、その名の重さに、自分自身が押しつぶされていくということを。


ガルド、本編1話の回想以来の再登場です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ