第84話 最初の妨害
夜半、伝令が馬を飛ばして知らせに来た。
輸送路の現場に着いたのは、翌朝だった。夜明け前の薄暗い光の中、まだ焦げ臭さが漂っている。
荷馬車が二台、燃やされていた。積んでいたのは、北方三州へ回すはずだった食料の一部だ。負傷者は三名。幸い、命に別状はない。護衛の一人は、腕に包帯を巻いたまま、まだ震えていた。
「食料の量は」
「三州分の、およそ一割です」
若い戦後処理官の声には、隠しきれない疲労があった。
「一割……」
「立て直せない数字ではありません。ですが、時間を失いました」
アレンは焼け跡を見渡した。焦げた木箱の隙間から、まだ煙が上がっている。
「目撃者は」
「複数います。全員が、同じ紋章を掲げていたと」
勇者団の紋章。北の村で聞いたものと同じだ。
「指揮していた人物は」
「顔を見た者は、いません。フードを深く被っていたと」
アレンは、それ以上追及しなかった。今は、姿の見えない指揮官よりも、目の前の被害への対応が先だ。
「負傷者の治療を最優先に。食料の再手配は、南部の余剰から融通します」
指示は速かった。だが、内心では、これが始まりに過ぎないことも分かっていた。
リアーヌが現場に到着したのは、片付けが半分ほど進んだ頃だった。
「……ひどい」
焼け跡を見て、彼女の顔から色が引いた。
「あの人たちは、本気で戦うつもりなんですか。この国の民に、これ以上、何を背負わせる気で」
「本気かどうかは、まだ分かりません。ただの威嚇の可能性もあります」
「威嚇だとしても」
リアーヌの声が震えた。
「もう、これ以上失うものが残っていない人たちに、何をさせているつもりなんでしょうか」
その言葉に、アレンは束の間、黙った。
彼女の怒りは、正しい。だが、正しさだけでは、次の一手にはならない。
「怒りは、必要です」
やがて、アレンは静かに言った。
「ですが、怒りのままに動けば、相手の思う壺です。今、私たちに必要なのは、次に何が起きるかを読むことです」
「……それが、あなたのやり方なんですね」
リアーヌは、それ以上言わなかった。だが、その目には、まだ納得しきれない光が残っていた。
遠く、丘の上に、人影が見えた。
馬に乗り、こちらをじっと見下ろしている。フードの下の顔は分からない。だが、その立ち姿には、迷いのない何かがあった。
アレンが視線を上げた瞬間、人影は静かに馬首を返し、丘の向こうへ消えていった。
戦後処理官は知っている。
姿を見せない敵ほど、次に見せる姿を、こちらが選べないということを。
次話、残党のリーダーがついに姿を現します。




