表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜だが、唯一の”後始末役”を失った国は、英雄ごと自滅していった〜  作者: 風牙シオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/100

第82話 新体制トップとの距離

 着任から十日ほどが経った朝、王都の空気が、わずかに変わっていた。


 怒鳴り声の絶えなかった配給所の周りが、静かになっている。整列の仕方一つにも、以前とは違う秩序が生まれていた。


 配給所の列が、初めて半分に減った。


 王都備蓄を最優先に回した効果が、数字ではなく、目に見える形で表れ始めていた。それでも、リアーヌの表情は晴れない。


 彼女は毎朝、執務室に顔を出すようになっていた。最初は監視のつもりだったのかもしれない。だが今は、単なる習慣に近くなっている。


「北方三州から、また報告が来ました」


 彼女は書類をアレンの机に置いた。


「食料が尽きかけている村があります」


「把握しています」


「把握している、で終わらせるのですか」


 声に、抑えた苛立ちが滲んでいた。


「終わらせません。順番が来るまで、待っていただきます」


「順番が来る前に、飢え死にする人がいたら」


「そのときは、私の判断ミスです。責任は取ります」


 あまりに簡潔な答えに、リアーヌは一瞬、言葉を失った。


「……責任を取る、というのは、具体的には」


「今のところは、記録に残すことしかできません。ですが、記録は残します。誰が、いつ、何を理由に切り捨てられたか。曖昧にはしません」


 リアーヌはその言葉をしばらく咀嚼するように黙っていた。


「以前の宰相たちは、都合の悪いことは記録に残しませんでした」


「知っています」


「あなたが追放された理由の一つも、そうやって作られたと聞きました」


 アレンは書類から顔を上げた。


「詳しいですね」


「知らなければ、あなたを信用する材料がありませんでしたから」


 初めて、リアーヌの声に、皮肉ではない何かが混じった。


「調べました。あなたが処理してきた案件の記録を、追える限り」


「それで」


「まだ、信用したわけではありません」


 彼女は素っ気なく言ったが、その口調はどこか、以前より柔らかかった。


「一つ、伺ってもいいですか」


 リアーヌが椅子に浅く腰かけたまま言った。


「あなたは、この国を憎んでいないのですか。追い出された国でしょう」


「憎んでいないとは言いません」


 アレンは書類を整えながら答えた。


「ですが、憎しみは仕事の理由にはしません。それだけです」


 リアーヌはしばらくその答えを見つめるように黙っていた。何かを言おうとして、結局は言葉を選び直したようだった。


 扉を叩く音がして、若い戦後処理官が駆け込んできた。


「失礼します。北の国境沿いで、動きがあります」


「動き、とは」


「旧勇者派の残党です。武器を集めているという情報が」


 部屋の空気が、一瞬で変わった。


 リアーヌの顔から、血の気が引く。


「まさか、あの人たちが」


「まだ確定情報ではありません。ですが、放置はできません」


 アレンは地図を広げ直した。北の国境に、新しい印をつける。


 戦後処理官は知っている。


 信用は、言葉ではなく、次に何が起きても記録を残し続けるという行為の積み重ねでしか、育たないということを。

次話から、旧勇者派の影が本格的に近づいてきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ