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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第72話 積み重ね

 成功は、静かに増えていった。


 二件。

 三件。

 五件。


 山間部での搬送。


 すべて、到着までに処置が間に合っている。


「中継点の効果、明確です」


 エレナの報告。


「平均搬送時間は増加していますが、

 “致命遅延”は発生していません」


 カタリーナが資料を見ながら頷く。


「最悪ケースを潰してる」


 クラウスが腕を組む。


「効率は落ちてるな」


「はい」


 アレンは否定しない。


「ですが、目的は達成しています」


 その言葉は、以前とは少し違う。


 “全体最適”ではなく、“損失の回避”。


 設計思想が変わっている。


 一方、都市周縁部。


 こちらは依然として不安定だった。


「情報説明の同時公開、開始」


 エレナが操作する。


 画面に表示されるのは:


 ・データ

 ・前提条件

 ・限界

 ・想定外ケース


 すべて、同時に提示される。


「……読み切れるか?」


 クラウスが呟く。


「全員は無理です」


 アレンは答える。


「だが、歪められにくくなる」


 その夜。


 集会が開かれる。


「この数字はどういう意味だ!」

「条件を見ろ、条件を!」


 以前よりも、議論は長く続いた。


 すぐには殴り合いにならない。


 だが――


 完全には止まらない。


「まだ火種は残る」


 カタリーナが言う。


「ええ」


 アレンは頷く。


「ゼロにはできません」


 その時、報告が入る。


「山間部、同時多発案件」


 全員が顔を上げる。


 三件同時。


 それぞれ別地点。


「……来たか」


 クラウスが低く言う。


 これは、試験の本命。


 “最悪ケースの連鎖”。


「搬送ルート、分散!」


「中継点、全稼働!」


 指示が飛ぶ。


 時間が進む。


 一件目――安定。

 二件目――遅延、だが持ち直す。


 そして三件目。


「……遅れてる」


 エレナの声が硬い。


 交通障害。

 人員不足。


 シミュレーション通りの崩れ。


「追加班、投入」


 アレンが言う。


「どこから?」


「待機班、全開放」


 カタリーナが即座に動く。


 エリオットは、無言で見ている。


 時間が進む。


 ギリギリ。


 到着。


 処置。


 沈黙。


 そして。


「……全員、安定」


 エレナの報告。


 部屋に、わずかな息が戻る。


 誰も歓声を上げない。


 ただ。


 一つだけ、確かな事実がある。


 今回は――


 落ちなかった。


 アレンは、ゆっくりと椅子に背を預ける。


「……再現できた」


 小さな言葉。


 だが重い。


 エリオットが、初めて口を開く。


「……認める」


 全員が彼を見る。


「この設計は、“崩れにくい”」


 それは、彼なりの最大の評価だった。


 だが続ける。


「だが、コストは高い」


「はい」


 アレンは頷く。


「だから、選ぶ必要がある」


 何を残し、何を削るか。


 それはまだ終わっていない。


 戦後処理官は知っている。


 正しさは、完成しない。


 ただ、近づいていくだけだ。


 そして今。


 その距離は、確実に縮まっていた。


(第72話 了)

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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