表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜だが、唯一の”後始末役”を失った国は、英雄ごと自滅していった〜  作者: 風牙シオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/101

第7話 選別という決断

 城門前の混乱は、一晩で収まるようなものではなかった。


 条件付き受け入れの布告が出された翌日も、門の外には人が集まっていた。数は減ったが、視線は鋭くなり、言葉は刺々しい。


「昨日まで入れてたじゃないか!」

「今さら条件だと?」

「選り好みする余裕があるってのか!」


 兵士たちは盾を構え、必死に列を保っている。

 その後方、城壁の上から、アレンはその様子を見下ろしていた。


「……思ったより、早いですね」


 隣に立つマルクが舌打ちする。


「不満が溜まる速度は、食い物と同じだ。腹が減りゃ、すぐ爆発する」


 事実だった。

 人々は希望を抱いて集まり、その希望を“条件”という言葉で切られた。理屈が正しくても、感情は納得しない。


「暴動になりますか」

「このままならな」


 マルクの視線は門前の人混みから離れない。


 アレンは、静かに息を吸った。


「なら、時間を与えましょう」

「……時間?」


 その日の午後、城下町の広場で臨時の説明会が開かれた。

 兵に囲まれた即席の演壇。その中央に、アレンは一人で立った。


 ざわめきが、波のように押し寄せる。


「役人が出てきたぞ」

「昨日の決定をした奴だ」

「どうせ、綺麗事を――」


 アレンは、声を張らなかった。

 それでも、不思議と静まり返っていく。


「私は、グランツ王国の戦後処理官です」


 その肩書きに、困惑が混じる。


「ここに集まった皆さんを、全員救えないことを、まず謝罪します」


 一瞬、怒号が止まった。


「国の備蓄は限られています。今、無条件で受け入れれば、この国は二ヶ月で破綻します」

「だから見捨てるってのか!」


 怒鳴り声が飛ぶ。


 アレンは頷いた。


「見捨てます。ただし――“選びます”」


 ざわめきが再び広がる。


「仕事を用意しました。炭鉱、道路、倉庫、復興作業。技能がなくても構いません」

「働けない者は?」

「子供、病人、高齢者は保護対象です」


 少し間を置き、続ける。


「ですが、何もしないで守られる場所は、ここにはありません」


 言葉は冷たい。

 だが、嘘はない。


「選別だ!」

「弱い者切り捨てだ!」


 非難が飛ぶ中、アレンは一歩も引かなかった。


「それでも、この国は滅びません。私は、その責任を負います」


 その一言で、空気が変わった。


 ――責任。


 誰もが避けてきた言葉を、目の前の男は平然と口にした。


 説明会は、混乱のまま終わった。

 納得した者もいれば、去っていく者もいた。


 夕刻、執務室。


 リーゼは窓辺で腕を組み、街を見下ろしていた。


「……随分、恨まれましたね」

「慣れています」


 アレンは書類から目を離さず答える。


「それでも、今日は城門を突破しようとする者はいませんでした」

「理解した、というより……覚悟を見た、でしょうね」


 リーゼは振り返った。


「あなたは、嫌われることを恐れない」

「恐れていたら、この仕事はできません」


 沈黙。


 リーゼは、ふと問いかけた。


「それでも……苦しくはないのですか」


 アレンの手が、一瞬止まった。


「……苦しくない判断など、存在しません」


 夜。

 アレンは一人、城門近くの簡易宿営地を歩いていた。


 条件を満たせず、明日には別の土地へ向かう者たち。

 焚き火の明かりの中で、不安と諦めが交じる目が、彼を見た。


 誰かが呟く。


「……あんたが決めたんだろ」


 アレンは足を止め、深く頭を下げた。


「そうです」


 言い訳はしない。

 正義も語らない。


 その背中を、マルクが少し離れて見守っていた。


「……あんた、変な奴だな」

「そうでしょう」

「普通、逃げる」

「逃げられませんでした」


 マルクは鼻で笑い、だが視線を逸らさなかった。


「……俺は、あんたについてく」


 その言葉は短く、重かった。


 同じ頃、王国。


 復興の失敗に対し、民の不満が英雄へと向き始めていた。


「なぜ、あいつらは何も決めない」

「結局、責任を取る奴がいない」


 誰もがまだ知らない。


 グランツでは今、

 “責任を引き受ける”という、最も重い選別が行われていることを。


 戦後処理官は知っている。

 国を救うとは、全員を救うことではない。


 ――それでも、滅びさせないと決めることだ。


(第7話 了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ