第67話 余白
機構が止まって三日。
ベルクの街は、奇妙な均衡の中にあった。
暴動は消えた。
抗議も止んだ。
だが、それは解決ではない。
ただ、“基準”が消えただけだった。
ベルク本部。
職員の数は半分以下になっていた。
各国へ戻る者。
次の職を探す者。
残っているのは、わずかだった。
エレナが静かに報告する。
「本日付で、さらに八名離職」
「……そうですか」
アレンは頷くだけ。
引き止めない。
引き止める資格がないと、理解している。
別室。
エリオットは合理派の数名と話していた。
「再構築案をまとめる」
「機構を縮小するべきです」
「倫理監査は任意化で十分」
議論は速い。
迷いがない。
エリオットは、机に手を置く。
「無駄を削ぐ」
その言葉は、一貫している。
廊下。
カタリーナは、一人で書類をまとめていた。
倫理監査の記録。
未処理案件。
中止された報告。
彼女は、ひとつひとつ目を通す。
「……終わってない」
小さく呟く。
そして、閉じない。
残す。
アレンは、屋上にいた。
風が強い。
ベルクの街を見下ろす。
変わらない景色。
だが、その中身は違う。
「……静かだな」
後ろから声。
クラウスだった。
「ええ」
「嵐の後みたいだ」
「嵐は終わっていません」
短い返答。
クラウスが隣に立つ。
「で、どうする」
アレンは、すぐには答えない。
街を見続ける。
「……設計をやり直します」
やがて言う。
「最初から」
「まだやる気か」
「やるしかありません」
クラウスは笑う。
「負けたばっかだぞ」
「だからです」
風が吹く。
「このままでは、もっと壊れる」
その言葉に、迷いはない。
だが、以前の確信とは違う。
重さがある。
理解した上での覚悟。
その夜。
一通の書簡が届いた。
差出人――
ヴェルナー・クライスト。
短い文。
『敗北を認めたことに敬意を。
次の設計を、見せてほしい』
アレンは、それを静かに閉じる。
戦後処理官は知っている。
制度は壊れる。
だが。
壊れた後に何を作るかで、
世界は変わる。
今。
機構には、何もない。
だからこそ――
すべてを作り直せる。
(第67話 了)
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