第66話 停止
決定は、あまりにも静かに下された。
『戦後復興管理機構 活動一時停止』
短い通達。
だが、その意味は重い。
ベルク本部。
掲示板に貼られたその一枚を、職員たちは無言で見つめていた。
「……本当に、止まるのか」
誰かが呟く。
「ええ」
エレナが答える。
「全監査業務、凍結。
新規案件受付停止。
既存案件は各国へ返還」
つまり。
機構は、機能しない。
会議室。
いつもと同じ席。
同じ机。
だが、空気だけが違う。
「本日をもって、機構は一時停止する」
アレンの声は、静かだった。
「期間は未定。
再開は、再設計後」
誰も拍手しない。
当然だった。
これは、勝利ではない。
「……責任は私にあります」
その言葉に、反応はない。
もはや誰も、責任の所在を求めていない。
結果が、すべてだった。
エリオットが口を開く。
「合理的な判断です」
その声は落ち着いている。
「これ以上の損失を防ぐためには必要だった」
カタリーナは、何も言わない。
ただ、机の上の書類を閉じた。
クラウスが立ち上がる。
「……これで終わりか」
「いいえ」
アレンは答える。
「終わっていません」
だが、その言葉に力はない。
現実は明白だった。
機構は、止まった。
その日の午後。
各国は独自に動き始めた。
再編の加速。
政策の撤回。
混乱の収束。あるいは拡大。
統一された基準は、消えた。
ベルクの街は、不思議なほど静かだった。
デモは消えた。
怒号もない。
ただ。
誰も何も言わなくなった。
それが、一番重かった。
夜。
本部の灯りは半分に減っていた。
廊下は暗く、足音がよく響く。
アレンは、一人で歩いていた。
かつて多くの人が行き交った場所。
今は、空白だ。
戦後処理官は知っている。
戦いの終わりは、静かだ。
だがその静けさは、平和ではない。
ただ、何も決まっていないだけだ。
窓の外。
ベルクの夜は、変わらない。
だが。
その中にあった“仕組み”は、消えた。
アレンは立ち止まる。
そして、初めて。
はっきりと口にした。
「……負けたな」
誰に向けた言葉でもない。
だが、それがすべてだった。
合理にも。
倫理にも。
制度にも。
彼は、一度敗北した。
それでも。
足は止まらない。
止めてはいけない。
なぜなら――
まだ、終わっていないからだ。
(第66話 了)
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