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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第64話 省略の代償

 被害は、静かに起きた。


 派手な暴動ではない。

 炎も上がらない。


 だが、その分だけ重かった。


「地方再編地区、集約完了」


 エレナの報告。


「旧医療施設、完全閉鎖」


 続く沈黙。


「……搬送時間は?」


 アレンの問い。


「最大値、五十五分」


 空気が止まる。


「五十五分……」


 クラウスが低く呟く。


「想定外か」


「想定はしていました」


 エレナは答える。


「ただし、倫理監査で“危険域”とされていた」


 その言葉が、静かに落ちる。


 倫理監査。


 今は――停止されている。


「……事例は?」


 カタリーナの声。


 エレナは、少しだけ視線を落とした。


「重篤患者、二名死亡」


 沈黙。


 誰も、すぐには言葉を出せない。


「記録を」


 アレンの声は、かすかに低い。


 資料が置かれる。


 簡潔な報告書。


 発症。

 搬送。

 到着。

 死亡。


 手続きは、すべて適正。


 違反はない。


 ただ一つ。


 倫理審査が、存在しなかった。


「……これは」


 カタリーナがゆっくりと言う。


「防げた」


 エリオットが反論する。


「不確定です」


「いいえ」


 彼女は首を振る。


「少なくとも、警告は出た」


 その視線は、アレンに向く。


 彼は、何も言わない。


 言えない。


 夜。


 報道は小さく扱った。


『再編地区で医療遅延、二名死亡』


 大きな見出しにはならない。


 だが。


 確実に広がる。


 ベルク本部前。


「またかよ……」

「結局同じだ」


 怒りは、以前より静かだった。


 だがその分、深い。


 会議室。


 エリオットが言う。


「全体としては改善しています」


 誰もすぐには答えない。


「……必要な犠牲です」


 その言葉が、落ちる。


 カタリーナが、静かに立ち上がる。


「あなたは、もう止まれないのね」


 エリオットは、否定しない。


「止まる理由がない」


 アレンは、そのやり取りを見ていた。


 そして、ゆっくりと言う。


「……違う」


 全員の視線が向く。


「止まるべきだったのは、私です」


 沈黙。


「私は、倫理監査を削った」


 その声は、はっきりしている。


「その結果が、これです」


 机の上の報告書。


 二つの名前。


 短い記録。


 重い結果。


「……私は」


 言葉が、一瞬だけ止まる。


 だが、続ける。


「自分の思想を、裏切りました」


 初めての言葉。


 完全な認識。


 クラウスが、ゆっくりと息を吐く。


「……やっと言ったな」


 カタリーナは、何も言わない。


 ただ、目を閉じる。


 エリオットは、静かに言う。


「それでも機構は生き延びています」


 その言葉は、正しい。


 そして――冷たい。


 戦後処理官は知っている。


 制度を守るために人を切り捨てる時、

 それは制度の勝利ではない。


 ただの延命だ。


 そしてその延命は、

 必ず次の代償を要求する。


 今。


 その代償は、すでに支払われている。


(第64話 了)

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