第63話 凍結
通達は、冷たかった。
『三加盟国、即時離脱を決定』
『追加二カ国、拠出金の凍結を表明』
ベルク本部、戦略室。
壁の地図から、色が消えていく。
「……拠出金、四割減」
エレナの声が硬い。
「運営は?」
「現状維持で三週間」
沈黙。
クラウスが低く言う。
「時間切れだな」
その言葉に、誰も反論しない。
エリオットが前に出る。
「即時のコスト削減と機能集約を提案します」
机に新しい資料を置く。
「非中核業務の停止。
監査案件の優先順位再設定。
警備の外部委託拡大」
合理的だ。
冷静だ。
「機構は生き残るべきです」
その言葉に、数人が頷く。
カタリーナが静かに言う。
「何を切るの?」
「倫理監査の一部」
空気が凍る。
「現状ではコスト過多です」
「……あなた、分かって言っている?」
「はい」
エリオットは迷わない。
「今は生存が優先です」
アレンは、資料を見ている。
数字は正しい。
削減すれば、延命はできる。
「……承認します」
その一言で、空気が変わる。
カタリーナが息を呑む。
「本気で?」
「一部です」
アレンは続ける。
「全面ではない。
優先度の低い案件を一時停止」
「それがどれだけの意味を持つか、分かっている?」
カタリーナの声は、初めて感情を帯びた。
「ええ」
短い返答。
だがその声は、わずかに重い。
エリオットが静かに言う。
「正しい判断です」
その瞬間。
立ち位置が、明確に分かれた。
夜。
決定はすぐに実行された。
倫理監査の一部停止。
監査待機案件の増加。
そして――
翌日。
その影響は、すぐに現れた。
「地方再編案件、即時実行」
報告が入る。
「倫理審査を経ずに?」
「優先順位の変更により、簡略化」
カタリーナが立ち上がる。
「それは“省略”よ」
アレンは、何も言わない。
言えない。
その夜。
アウステル。
ヴェルナーは報告を受けていた。
「機構、倫理監査を一部停止」
彼は、小さく笑った。
「……ようやく揃った」
側近が問う。
「何がです」
「条件だ」
彼は静かに言う。
「彼は今、“合理に寄った”」
窓の外、整然とした街。
「ここからが本番だ」
ベルク。
本部前の群衆は、さらに増えていた。
「結局同じじゃないか!」
「機構も切り捨てる側だ!」
声は鋭い。
以前よりも、確信を帯びている。
アレンは、執務室で一人だった。
机の上には、二つの書類。
倫理監査停止の決裁書。
そして、リオンの記録。
手が、わずかに止まる。
戦後処理官は知っている。
正しさは、一度揺らげば戻らない。
だが。
揺らがなければ、折れる。
その狭間で。
彼は今、初めて“選ばされた”。
そしてその選択は――
誰かを救うのではなく、
何かを守るためのものだった。
(第63話 了)
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