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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第60話 公開対立

 機構内部の対立は、ついに外へ出た。


 臨時公開会合。


 本来は加盟国代表のみが参加する場だったが、今回は例外的に機構職員の意見表明が許可された。


 理由は一つ。


 ――隠せなくなったからだ。


 ベルク中央議事堂。


 傍聴席は満席。


 記者、外交官、市民。


 全員が見ている。


 壇上に立つのは、二人。


 アレン・ヴァルクス。

 エリオット・ハーグ。


「……機構は、どこへ向かうのか」


 議長の言葉で始まる。


「合理か、倫理か。

 それとも別の道か」


 視線が二人に集まる。


 先に口を開いたのは、エリオットだった。


「明確です」


 迷いがない。


「機構は合理で成立した。

 合理でなければ存在価値がない」


 ざわめき。


「再建とは、選別です。

 限られた資源を、最大効率で配分する」


 その言葉は、正確だ。


「感情を基準にすれば、国家は崩れる」


 アレンは、静かに聞いている。


 次に、彼の番。


「合理は必要です」


 短い。


「だが、それだけでは不十分です」


 エリオットがすぐに反応する。


「不十分なのは運用です。理論ではない」


「理論も不完全です」


 その一言で、空気が変わる。


 エリオットの目が細くなる。


「……あなたが、それを言うのですか」


「はい」


 アレンは、逃げない。


「我々は“平均”を見ている」


「それが正しい」


「平均は、例外を隠す」


 ざわめき。


 エリオットが一歩踏み出す。


「例外を基準にすれば、全体が崩壊する!」


 声が強い。


「一人のために、千人を危険に晒すのか!」


 アレンは、少しだけ間を置いた。


「……違います」


 静かに言う。


「一人を無視し続ければ、

 いずれ千人が同じ側に立つ」


 沈黙。


 言葉の重さが、遅れて広がる。


 カタリーナが、横から口を挟む。


「問題は“どこまでを全体と呼ぶか”よ」


 エリオットが振り返る。


「国家単位です」


「では、その国家から外れた人は?」


「存在しない」


 即答。


「国家に含まれる」


「含まれない現実がある」


 カタリーナの声は低い。


 アレンは、二人の間に視線を落とす。


 そして、ゆっくりと言った。


「……我々は設計を誤った」


 会場がざわめく。


「合理は正しい。

 倫理も正しい」


 彼は続ける。


「だが、それらを“同時に機能させる仕組み”がなかった」


 エリオットが否定する。


「不要です。優先順位を決めればいい」


「決めた結果が、今です」


 静かな反論。


 エリオットは言葉を詰まらせる。


 議長が口を開く。


「では、結論は?」


 アレンは答える。


「制度の再設計が必要です」


「どのように」


「合理、倫理、影響予測」


 三つの言葉。


「三層で監査する」


 会場がざわめく。


 エリオットが低く言う。


「遅すぎる」


「ええ」


 アレンは認める。


「ですが、今やらなければ、機構は壊れます」


 その言葉は、脅しではない。


 事実だった。


 傍聴席の後方。


 一人の男が、静かにそれを見ていた。


 ヴェルナー・クライスト。


 彼は小さく呟く。


「……甘い」


 だが、その目は興味を失っていない。


 会合は結論を出さずに終わった。


 外では、再び群衆が叫んでいる。


 機構は割れた。


 だがまだ、崩れてはいない。


 戦後処理官は知っている。


 対立は終わりではない。


 対立は、崩壊の前兆だ。


 そして今。


 その前兆は、誰の目にも明らかだった。


(第60話 了)

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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