第58話 合理の旗
加盟国カイゼン共和国が、条約離脱を正式に表明した。
理由は簡潔だった。
『機構の越権的監査と政治的不安定化への懸念』
ベルク本部、記者会見室。
フラッシュが瞬く。
「機構は今回の離脱をどう受け止めますか!」
質問が飛ぶ。
壇上に立つのは、アレンではない。
エリオットだった。
「離脱は加盟国の権利です」
声は落ち着いている。
「機構は合理性と透明性を守り続けます」
「暴動対応の責任は?」
「判断の一部に不備があったと認識しています。
現在是正措置を進めています」
言葉は整っている。
だが、最後に彼は一文を加えた。
「合理を捨てれば、復興は成り立ちません」
その発言は、内部でも波紋を広げた。
会議室。
「あなたに広報を任せた覚えはない」
クラウスが低く言う。
「広報部が対応不能でした」
エリオットは淡々と答える。
「空白は埋めるべきです」
カタリーナが冷静に指摘する。
「あなたは“合理派”として話した」
「事実を述べただけです」
アレンは黙っていた。
数秒後、静かに言う。
「次回からは私が出ます」
「それでは弱く見える」
エリオットは視線を逸らさない。
「今は強さが必要です」
「強さとは何ですか」
アレンの問い。
「迷わないことです」
沈黙。
ベルク本部前。
デモは二つに割れていた。
「機構は弾圧を止めろ!」
「機構は国家に口を出すな!」
同じ建物に向かって、相反する怒号。
その夜。
アウストリアは追加発表を行った。
『社会安定区域を拡大。
治安維持措置を強化』
同時に、財政黒字達成を宣言。
ヴェルナーの演説は短い。
「国家は結果で語る」
その映像を、ベルクの職員たちも見ていた。
「……支持率上昇」
エレナが報告する。
「再編肯定、七割」
カタリーナが呟く。
「数字は勝っている」
「ええ」
アレンは窓の外を見る。
庁舎の焦げ跡。
「だが、何を失っているかは数字に出ない」
翌日、内部投票が行われた。
議題――
『機構長信任』
結果は僅差。
信任、過半数。
だが反対票は予想以上だった。
エリオットは静かに言う。
「あなたは辛うじて残った」
「残っただけです」
アレンは否定しない。
戦後処理官は知っている。
制度は、信頼で動く。
その信頼が揺らげば、
設計は紙の上に戻る。
今、機構は二つに割れかけている。
合理か、倫理か。
強さか、修正か。
そしてその中心に立つ男は――
初めて、自分の足場が崩れかけているのを感じていた。
(第58話 了)
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