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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第55話 監査権の解釈

 ベルク本部・緊急会議室。


 空気は重く、しかし静かだった。


「……監査権の再解釈、ですか」


 エレナがゆっくりと確認する。


「はい」


 アレンは机上の条約文を指でなぞる。


「機構は“復興に関連する施策”について監査できる」


「治安維持法は内政問題だ」


 エリオットが即座に言う。


「医療再編と無関係です」


「無関係ではありません」


 アレンは淡々と続ける。


「再編による社会不安を理由に制定された法です」


 カタリーナが目を細める。


「つまり?」


「再編の副作用が原因なら、復興関連施策に含まれる」


 沈黙。


 条約文の解釈を、わずかに広げる。


「それは越権と見なされる」


 クラウスが低く言う。


「ええ」


 アレンは否定しない。


「だが、何もしなければ機構は盾になります」


 エリオットが机を叩く。


「国家主権を侵せば、加盟国は離脱します!」


「離脱は可能です」


 アレンは静かに返す。


「だが、制度の信用は残る」


 エリオットは言葉を失う。


 その夜、機構は公式通知を送った。


『医療再編と関連する社会安定措置について、追加監査を実施する』


 文面は丁寧だが、明確だった。


 アウステル。


 ヴェルナーは通知を読み終え、薄く笑った。


「……来たか」


 側近が問う。


「対抗しますか」


「いいや」


 彼は立ち上がる。


「歓迎しよう」


 翌日、ヴェルナーは公開会見を開いた。


「機構が監査を希望するなら、全面公開する」


 記者がざわめく。


「我々は隠すものはない」


 資料が配布される。


 医療再編後の財政改善率。


 救急設備増強記録。


 犯罪率低下。


 数字は、完璧に整えられている。


「透明性は歓迎だ」


 ヴェルナーは穏やかに言う。


「だが、国家の治安は国家が決める」


 その映像がベルクへ届く。


「……巧妙です」


 エレナが呟く。


「監査を受け入れつつ、主導権を握る」


 カタリーナは資料を精査している。


「数字は本物。でも文脈が誘導的」


 エリオットは静かに言う。


「成果は事実です」


「犠牲も事実です」


 カタリーナの返答は鋭い。


 その夜、アウストリア指定区域で再び衝突が起きた。


 今度は、兵士が重傷を負った。


 映像が流れる。


 炎上する車両。


 倒れる兵。


 叫ぶ市民。


 ヴェルナーは即座に声明を出す。


『暴力は許されない。

 秩序維持は不可欠だ』


 そして一文。


『機構の監査は続行される。

 我々は協力する』


 ベルク本部。


 エリオットが静かに言う。


「彼は恐れていない」


「ええ」


 アレンは頷く。


「監査を受けても揺るがない」


 クラウスが吐き捨てる。


「それどころか、強化されている」


 世論は分裂していた。


「機構は政治に口を出すな」

「機構は弾圧を止めろ」


 両側からの圧力。


 戦後処理官は知っている。


 制度が両側から攻撃される時、

 それは中立に近づいているのではない。


 孤立に近づいている。


 窓の外。


 ベルク本部前の群衆は増えている。


 石が、ついに窓を一枚割った。


 アレンは割れた硝子を見つめる。


「……想定より早い」


「何がですか」


 エレナが問う。


「衝突の段階が」


 合理と倫理。


 国家と制度。


 線は引いた。


 だが、線の上に立つ者は――


 どちらからも狙われる。


(第55話 了)

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