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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第54話 条件の行間

 機構の声明は、その日のうちに発表された。


『アウストリア医療再編に関する再確認声明』


 内容は簡潔。


 ――本再編は、救急搬送体制が完全に整備された場合に限り妥当と判断された。

 ――社会安定措置は、医療制度の合理性とは別次元の問題である。

 ――機構は人権制限を支持しない。


 言葉は慎重で、直接的な批判は避けられている。


 だが、意図は明確だった。


 ベルク本部前。


 声明が読み上げられると、群衆のざわめきが変わる。


「……支持しないって言ったぞ」

「じゃあ弾圧は機構の命令じゃないのか」


 疑念は、わずかに分散した。


 だが同時に、別の声も上がる。


「逃げてるだけだろ!」


 庁舎内。


「効果は限定的です」


 エレナが報告する。


「抗議は継続。

 ただし、直接的な敵視は減少傾向」


 カタリーナが静かに言う。


「遅いけれど、必要な一歩」


 エリオットは、腕を組んだままだ。


「曖昧すぎます」


「曖昧であることが狙いです」


 アレンは淡々と答える。


「加盟国の主権を否定せず、線を引く」


「線を引いたつもりでも、向こうは踏み越えます」


 エリオットの声は鋭い。


 その夜。


 ヴェルナーから正式な返信が届いた。


『機構の声明は確認した。

 我が国の治安措置は内政問題であり、再編の合理性とは無関係である』


 さらに一文。


『機構が政策実行に過度に干渉する場合、条約の再検討も視野に入る』


 クラウスが低く呟く。


「脅しか」


「牽制です」


 アレンは書簡を閉じる。


「彼は引いていない」


 翌日。


 アウストリアの指定区域で、大規模な抗議が発生した。


「医療を返せ!」

「隔離をやめろ!」


 兵が隊列を組む。


 押し合い。


 転倒。


 催涙弾。


 映像は瞬く間に広がった。


 ベルク本部。


 エレナの声が硬い。


「負傷者多数。

 重傷三名」


 会議室が静まり返る。


 エリオットが言う。


「暴徒化しています。

 秩序維持は必要です」


「秩序が何を守っているのか、見えなくなっています」


 カタリーナの言葉は重い。


 アレンは、映像をじっと見ていた。


 画面の端に、機構の報告書が掲げられたプラカードが映る。


『統計的に妥当』


 その文字が、燃やされる。


 炎が上がる。


 戦後処理官は知っている。


 言葉は設計できる。


 だが、解釈は設計できない。


 声明は出した。


 線も引いた。


 それでも。


 現実は、さらに速く動いている。


「……次の手を打ちます」


 アレンが静かに言った。


 エリオットが目を細める。


「何をするつもりです」


 答えは、まだ言わない。


 だが、空気は確実に変わっていた。


 ヴェルナーは牽制した。


 機構は線を引いた。


 そして今。


 対立は、静かな応酬から、

 明確な衝突へと移ろうとしている。


(第54話 了)

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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