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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第52話 成功の証明

 アウストリアの首都、アウステル。


 広場には国旗が掲げられ、演壇の前に人が集まっていた。


「財政赤字、前年比二十五%削減!」


 ヴェルナーの声が、拡声器を通して響く。


「医療再編は成功した。

 持続可能な国家への一歩だ」


 拍手。


 背後の掲示板には、数字が並ぶ。


 ・救急搬送件数増加

 ・拠点病院設備投資完了

 ・平均待機時間短縮


 どれも、事実だ。


「悲劇はあった」


 ヴェルナーは一瞬だけ声を落とす。


「だが、国家は立ち止まらない」


 その言葉は、冷酷ではない。


 割り切っているだけだ。


 ベルク本部。


 演説の記録映像を、機構職員たちが見ていた。


「……世論支持、回復」


 エレナが呟く。


「再編支持、六割」


 エリオットが静かに言う。


「結果が出ています」


 会議室で、カタリーナが資料を机に置く。


「短期的には、です」


「長期的にも改善傾向です」


 エリオットは迷わない。


「あなたは何を恐れているんですか」


「制度が人を切り捨てることを、正当化し始めること」


 静かな応酬。


 アレンは、そのやり取りを黙って聞いていた。


 そこへ新たな報告が届く。


「アウストリア、治安維持法改正」


 条文が映し出される。


 ――社会不安を助長する虚偽情報の拡散を処罰。


 エリオットが言う。


「当然の措置です。

 デマは再建を阻害する」


 カタリーナの視線が鋭くなる。


「“虚偽”の定義は誰が決める?」


 沈黙。


 クラウスが低く呟く。


「機構の報告書が引用されているな」


 スクリーンに、該当部分が映る。


『医療再編は統計上妥当』


 その一文が、治安法改正の根拠として使われている。


 アレンは、ゆっくりと目を閉じた。


「……利用されています」


「しかし内容は正しい」


 エリオットは即答する。


「正しいことを引用するのは問題ではない」


「引用の文脈が問題です」


 カタリーナが言う。


 その夜。


 ベルク本部前で、小規模な衝突が起きた。


「機構は弾圧の盾だ!」


 怒号。


 石が一つ、窓に当たる。


 割れはしない。


 だが音は大きい。


 アレンは執務室で、報告書の該当箇所を読み返していた。


 文面は冷静。


 余計な感情はない。


 それでも。


「……正しい文が、正しい使われ方をするとは限らない」


 エレナが静かに言う。


「止めますか」


「止められません」


 アレンは、はっきり答える。


「加盟国の立法権です」


「なら、どうするのですか」


 長い沈黙。


「設計を変えます」


 その声は、重い。


 戦後処理官は知っている。


 成功は、正しさの証明ではない。


 成功は、正しさを固定化する。


 そして固定化された正しさは、

 疑問を許さなくなる。


 ヴェルナーは一歩も引いていない。


 むしろ前進している。


 機構内部の亀裂は、まだ小さい。


 だが。


 その亀裂は、確実に広がり始めていた。


(第52話 了)

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