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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第51話 分岐点

 公開倫理審問から四日後。


 ベルク本部の会議室は、これまでになく緊張していた。


「倫理監査の事前義務化案、草案完成」


 エレナが資料を配る。


「影響予測シミュレーションの導入。

 例外事例の抽出と公開。

 施行前の試験運用期間延長」


 紙の束は、厚い。


 合理だけではなく、倫理と例外を組み込む設計。


「……重すぎます」


 最初に口を開いたのは、エリオットだった。


「何がですか」


 アレンは視線を上げる。


「監査が三層化されれば、決定は遅れます。

 再建が止まる」


「止まりません」


「止まります」


 声が強い。


「国家再建は速度が命です。

 一件の悲劇で手続きを増やせば、機構は麻痺する」


 カタリーナが静かに言う。


「速度が命なら、命も速度に含めるべきです」


「感情論です」


 エリオットの言葉は鋭い。


「私は感情で話していません」


 カタリーナの声は低い。


「リスク分布の話です。

 山間部の死亡率は統計の影に隠れている」


 会議室の空気が二分される。


 若手職員の数人は、エリオットの側に座っている。


 アレンは、その配置を見逃さなかった。


「派閥を作る気ですか」


 静かな問い。


「思想は共有されるべきです」


 エリオットは迷わない。


「合理を弱めれば、機構は存在意義を失う」


「弱めるのではない」


 アレンは、ゆっくりと言う。


「補強する」


「甘くするの間違いです」


 沈黙。


 その時、外から報告が入る。


「アウストリア、医療再編第二段階を発表」


 資料が配られる。


 ヴェルナーの演説要旨。


『第一段階は成功。

 財政改善率、予測を上回る。

 国民医療満足度、上昇』


 数字は確かに改善している。


「……成功例だ」


 エリオットが呟く。


 だが、記事の下段には小さく書かれている。


『抗議集会、治安維持法違反で解散』


 カタリーナが指摘する。


「これをどう見る?」


「治安は国家の責務です」


 エリオットは即答する。


「不安定化は再建を遅らせる」


 アレンは、黙ってヴェルナーの発言全文を読む。


『国家は感情で揺れてはならない。

 悲劇は悼む。しかし政策は進める』


 その言葉は、揺るがない。


 会議が終わった後。


 クラウスが低く言う。


「内部が割れ始めたな」


「ええ」


 アレンは、窓の外を見る。


 デモはまだ続いている。


「……あなたはどちらに立つのですか」


 エレナが問う。


「どちらにも立ちません」


「では?」


「設計者です」


 その夜。


 エリオットは若手職員を集めていた。


「機構は、合理で信頼を得た」


 彼の声は熱を帯びる。


「倫理を重ねれば、政治に呑まれる。

 我々は冷静であるべきだ」


 拍手は小さいが、確実にあった。


 一方、カタリーナは独りで記録を整理している。


「例外の発生率、再計算……」


 彼女の机には、リオンの名前がまだ残っている。


 アレンは執務室で、二つの報告書を並べていた。


 合理案。

 倫理強化案。


 どちらも正しい。


 どちらも不完全。


 戦後処理官は知っている。


 制度は、思想で割れる。


 そして割れ目から、

 必ず外部の力が入り込む。


 ヴェルナーは、まだ動いていない。


 だが。


 その静けさこそが、最も警戒すべき兆しだった。


(第51話 了)

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