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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第47話 移行期間

 医療再編は、「段階移行」として開始された。


 閉鎖は即日ではない。

 三か月の猶予。

 その間に救急搬送網を整備し、拠点病院を強化する。


 書類上は、慎重な計画だった。


「救急馬車の増設、七台」

「山間部への中継所設置、二か所」

「医師の再配置、完了率六割」


 エレナが報告する。


「搬送時間の理論値は?」

「平均二十二分増」


 アレンは、静かに頷いた。


「理論値、です」


 同じ頃、山間部の町ラーデン。


 小さな病院の廊下には、まだ患者が残っている。


「先生、本当に閉まるんですか」


 看護師が、院長に問う。


「……決まったことだ」


 院長は、古いカルテを整理している。


「拠点病院へ紹介状を書こう」


 その隣で、少年リオンが咳き込んだ。


 母親が背をさする。


「もうすぐ大きな病院に行けるんだよ」


 少年は、弱く笑った。


 ベルク本部。


 カタリーナは、倫理監査報告の草案を読み上げる。


「リスク評価に地域差を明示すべきです」

「追記します」


 アレンは即答する。


「だが、結論は変わらない」

「……ええ」


 彼女は視線を逸らさない。


「あなたは、揺らがない」


「揺らぎます」


 短い否定。


「だが、判断は揺らがせません」


 その会話を、エリオットが静かに聞いていた。


 夜。


 ヴェルナーから報告が届く。


『再編に対する反発は局地的。

 世論支持は維持されている』


 添えられた世論調査グラフは、上向きだ。


「……成功例になる」


 エリオットが言う。


「国家単位では、です」


 アレンの声は、冷静だ。


「個別の事例は?」

「例外は、必ず出ます」


 その言葉に、エリオットは迷いなく頷いた。


「例外を基準にすれば、全体が崩れます」


 翌週。


 ラーデン病院、外来終了日。


 最後の診療が終わり、灯りが落ちる。


 院長は、入口の鍵をかけた。


 静かな音。


 同じ夜。


 リオンが発作を起こす。


 母は、慌てて救急を呼ぶ。


「搬送先は、グレイツ中央病院」


 拠点病院まで、山道を越えて四十分。


 雪は降っていない。

 道路も凍結していない。


 理論上は、問題ない。


 救急馬車が到着する。


 リオンは、意識が薄い。


「大丈夫、大丈夫だから」


 母の声が震える。


 ベルク。


 アレンは、机に向かっていた。


 窓の外は静かだ。


 その静けさが、妙に重い。


 戦後処理官は知っている。


 移行期間は、最も危うい。


 制度はまだ完成せず、

 旧体制はすでに消えた。


 その隙間で。


 誰かの運命が、試される。


(第47話 了)

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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