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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第43話 条約

 条約は、拍手のない場所で結ばれた。


 レルンの復興が「成功」と認定されてから十日。

 戦後復興管理機構は、暫定ではなく――正式な枠組みへ移行する。


 会場は中立都市ベルクの石造りの会議庁。

 重い扉。厚い壁。窓は高く狭い。


 外に群衆はいない。

 英雄の凱旋のような華やかさもない。


 あるのは、慎重な視線と、疲れた沈黙だけだった。


「本日をもって、機構は多国間条約組織として成立する」


 議長が淡々と宣言する。


「加盟国は十三。準加盟は七。

 権限は復興支援、財政監督、治安再建、難民再配置に及ぶ」


 読み上げられる項目は、どれも重い。

 そして――どれも、誰かが嫌われることを前提としている。


 アレンは最後列に座っていた。

 壇上ではない。

 名も呼ばれない。


 そうなるように、彼自身が仕組んだ。


「……大きくなりましたね」


 隣でエレナが囁く。


「ええ」

「嬉しくないのですか」

「嬉しいですよ」


 アレンは小さく息を吐く。


「ただし、怖い」


「何が」

「権限が増えるほど、利用されやすくなる」


 その言葉の直後だった。


 扉が開く音。


 会議場の空気が、ほんのわずかに変わった。


 入ってきたのは、大国アウストリアの使節団。

 先頭を歩く男は、背が高く、髪は灰色。

 礼服は完璧に整い、歩き方に一切の無駄がない。


 彼は議長席に一礼し、静かに着席した。


「アウストリア宰相代理、ヴェルナー・クライスト」


 名が告げられた瞬間、周囲の代表たちの顔色が微かに変わる。


 ――来たか。


 アレンはその男を見つめた。


 威圧はない。

 声も上げない。

 だが、場の支配権が少しずつそちらに移っていく。


 条約の読み上げが続く。


「機構は加盟国に対し、復興計画の監査権を持つ」

「必要と認めた場合、財政措置を勧告できる」

「勧告に従わない場合、支援の停止を――」


 その“停止”という言葉の瞬間、

 ヴェルナーが初めて口を開いた。


「一点、確認を」


 声は低く、穏やかだった。

 しかし、全員が耳を向ける。


「勧告は、誰の責任として発せられるのか」

「機構全体の責任だ」

「個人ではない、と」


 ヴェルナーは、静かに笑う。


「結構。

 ならば、加盟国は安心して受け入れられる」


 その言い方が、引っかかった。


 “安心して受け入れられる”。

 まるで、武器の安全装置を確認するような口調。


 アレンは、目を細める。


(……理解している)


 この男は、制度を恐れていない。

 制度を利用する前提で、確認している。


 署名は、順番に行われた。


 ペン先が紙を擦る音。

 封蝋の匂い。

 押し殺したため息。


 最後に議長が言う。


「これより、機構は正式に発足する。

 各国は要請窓口を設置し、復興案件を提出せよ」


 会議は、閉じられた。


 廊下へ出た瞬間、クラウスがアレンに近づく。


「……見たか」

「ええ」

「あの男、嫌な匂いがする」

「有能な匂いです」


 クラウスが顔をしかめる。


「同じだろ」

「違います」


 アレンは、静かに言った。


「あの男は、“嫌われ役”を嫌がらない」


 その夜。


 控室で、アレンの元に名刺が届けられた。

 白い紙。金の縁取り。筆跡は端正。


 ――ヴェルナー・クライスト。


 裏には短い一文。


『戦後処理官殿。あなたの理論に敬意を。

 ぜひ一度、意見交換を』


 エレナが息を呑む。


「……会うのですか」

「ええ」


 アレンは、名刺を机に置く。


「会わなければ、もっと危険です」


 窓の外、ベルクの夜は静かだった。


 英雄の時代が終わった世界で、

 新しい“戦い方”をする者が現れた。


 戦後処理官は知っている。


 条約とは、平和の証ではない。


 ――権限が、正当化される瞬間だ。


 そして正当化された権限は、

 必ず誰かの手で、刃になる。


(第43話 了)

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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