第42話 評価されない勝利
回復は、数字の上では明白だった。
「税収、戦前水準の八割」
「市場流通、安定」
「闇取引、ほぼ消滅」
エレナの報告は、淡々としている。
街は立ち直った。
誰もが、それを認めざるを得ない。
だが。
「……戦後処理官の契約、更新見送りの声が出ています」
クラウスが、苦い顔で言った。
「理由は」
「“役割は終わった”と」
アレンは、静かに頷く。
「妥当です」
「妥当?」
ミラが思わず声を上げる。
「あなたがいなければ、この街は――」
「崩れていました」
アレンは、事実として言う。
「ですが、今は立っています」
沈黙。
「役割は、終了です」
その言葉に、ミラは唇を噛む。
「……誰も、あなたに感謝していない」
「必要ありません」
「私は、しています!」
声が、震えた。
「私は、あなたを拒絶した。
あなたの案を否決した。
それでもあなたは、最後まで残った」
アレンは、静かに彼女を見る。
「代表が、残ったからです」
「違う」
ミラは、首を振る。
「私は、怖かった。
嫌われるのが。
支持を失うのが」
長い沈黙。
「あなたは、最初からそれを受け入れていた」
アレンは、少しだけ視線を落とした。
「受け入れたのではありません」
「では?」
「……期待しなかっただけです」
その言葉は、重かった。
「評価を期待しない。
理解を期待しない。
ただ、崩れない構造を残す」
ミラの目に、涙が浮かぶ。
「それは、孤独です」
「ええ」
否定しない。
「ですが、制度は孤独でなければいけません」
その時、庁舎の外から拍手が聞こえた。
市場の再開記念式典だ。
壇上に立つのは、ミラ。
商人たち。
労働者たち。
歓声。
アレンの名は、呼ばれない。
それでいい。
式典が終わった後。
ミラは、静かにアレンの元へ戻ってきた。
「……あなたの名前を、呼びたかった」
「呼ばなくて正解です」
アレンは、穏やかに言う。
「英雄を作らないと決めたでしょう」
ミラは、笑いながら涙を拭いた。
「あなたは、本当に面倒な人ですね」
「よく言われます」
夕暮れ。
街は、穏やかな光に包まれている。
「……次は、どこへ?」
ミラの問い。
「要請が来ています」
「また、嫌われに行くんですね」
「おそらく」
彼は、遠くを見る。
「嫌われることが、仕事ですから」
ミラは、深く頭を下げた。
「……ありがとうございました」
アレンは、わずかに頷く。
拍手も、称号もない。
だが。
街は、残った。
戦後処理官は知っている。
評価されない勝利こそが、
最も確実な勝利だ。
そしてその勝利は、
記録にも残らず、
ただ未来だけを残す。
レルン編、終結。
(第42話 了)
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