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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第36話 誰のせいでもない失敗

 事故から三日後。


 数字は、はっきりと悪化を示していた。


「闇取引、さらに増加。

 正規市場の取引量、前月比四割減」


 エレナの声は平坦だが、その内容は重い。


「配給品の横流しが常態化しています」

「把握しています」


 アレンは、書類から目を離さない。


「徴税再開は」

「代表が拒否」

「理由は」

「“今は不安を増やせない”」


 その理屈は、一貫している。


 だが、街の裏通りでは、別の理屈が広がっていた。


「配給は続く」

「働かなくても、生きられる」

「だったら、売った方が得だ」


 小さな歪みが、積み重なっていく。


 そして――


 暴動は、突然だった。


 市場の一角。

 商人が、闇取引を告発した。


「これ以上、やっていけない!」


 怒鳴り声。

 押し合い。

 石が飛ぶ。


 兵が止めに入るが、

 火は一気に広がった。


 結果、負傷者二十名。

 重傷者三名。


 死者は出なかった。


 だが――


「……戦後処理官の管理不足ではないか」


 その言葉が、公に出た。


 記者会見。


 ミラは、真剣な顔で言う。


「今回の事態は、私たち全員の責任です」


 拍手は起きない。


「ですが、復興計画の遅れが一因であることは否定できません」


 その一言で、空気が凍る。


 名前は出さない。


 だが、誰を指しているかは明白だった。


 夜。


 宿舎の扉が叩かれる。


 クラウスだ。


「……やられたな」

「ええ」


 アレンは、淡々と答える。


「名指しではない。だが責任は私に寄る」

「怒らないのか」

「怒っても、数字は戻りません」


 少しの沈黙。


「……悔しくは?」

「悔しいですよ」


 それでも、声は揺れない。


「ですが、これは“彼女のせい”ではない」


 クラウスは、眉を寄せる。


「庇うのか」

「庇いません」


 アレンは、はっきりと言う。


「これは、“誰のせいでもない失敗”です」


 翌日。


 イサークが、正式な通達を出した。


 ――復興計画の一部見直し。

 ――権限の再配分。


 実質的に、アレンの裁量は縮小された。


「……監督強化ですか」


 エレナが、書類を握りしめる。


「ええ」


 アレンは、静かに頷いた。


「私は、責任だけが残ります」


 広場では、ささやきが広がる。


「やっぱり、冷たい案を出したからだ」

「最初から、合わなかったんだ」


 歓迎は、消えつつあった。


 夜。


 ミラは、一人で庁舎に残っていた。


 机の上には、報告書。


 彼女は、手を止め、窓の外を見る。


「……違う」


 小さく呟く。


「私は、間違っていない」


 だが、その言葉は、確信ではなく祈りに近かった。


 一方、アレンは静かに記録を更新する。


 ――暴動発生。

 ――裁量縮小。

 ――責任集中。


「……ここからです」


 エレナが、息を呑む。


「まだ、悪化する?」

「ええ」


 アレンは、淡々と告げた。


「今はまだ、“失敗が分散している”状態です」


 戦後処理官は知っている。


 本当の崩壊は、

 責任が曖昧なまま進行する。


 そして最後に――


 **誰か一人が、象徴として選ばれる。**


 その名前が、

 自分になる可能性を、

 彼はもう計算に入れていた。


(第36話 了)

ここまでご覧いただきありがとうございます。


明日からは1日1話の投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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