第33話 断られた提案
翌朝、アレンは正式な復興計画案を提出した。
紙の束は、厚い。
「三段階移行案です」
机の上に広げられた図表。
「第一段階――無条件配給を七日間延長。ただし登録制を同時開始。
第二段階――労働参加者への優先配給。
第三段階――地区ごとの自治委員会設置。責任の分散」
理路整然。
無理がなく、現実的。
だが。
「……早すぎます」
最初に口を開いたのは、財政担当だった。
「七日後に制限をかける? 反発が起きます」
「起きます」
「なら、なぜ」
「起きる前提で設計するからです」
空気が重くなる。
ミラは、静かに資料を閉じた。
「私は、この案に賛成できません」
「理由を」
「人が、ついてきません」
アレンは、瞬きを一つした。
「ついてこなくても、持続はできます」
「持続しても、心が壊れます」
その言葉に、数人が頷く。
「戦争で傷ついた人たちに、
“自己責任”を突きつけるのですか?」
ざわめき。
「自己責任ではありません」
「でも、そう聞こえます」
ミラは、はっきりと言った。
「今は、支える時期です」
沈黙。
アレンは、ゆっくりと息を吐く。
「では、延長は何日ですか」
「最低一か月」
「……財政は」
「支援要請を増やします」
「保証は?」
「ありません」
それでも、会議室の空気はミラ側に傾いていた。
「……採決を取りましょう」
議長の声。
結果は、明白だった。
**アレンの案、否決。**
会議室を出ると、廊下にざわめきが広がっていた。
「処理官の案は冷たすぎる」
「ミラ代表の方が、分かってくれている」
エレナが、小さく言う。
「……初めてですね」
「ええ」
アレンは、淡々と答えた。
「仕事を、正式に断られたのは」
その日の夕方、広場でミラが再び話す。
「皆さん、安心してください」
拍手。
「配給は延長されます。
誰も切り捨てません」
歓声。
その様子を、アレンは遠くから見ていた。
「……どうしますか」
クラウスが、隣に立つ。
「助言は?」
「求められていません」
「それでも、放っておくのか」
「はい」
クラウスは、眉をひそめる。
「君らしくないな」
「違います」
アレンは、静かに言った。
「これは、彼女の街です」
夜。
宿舎の机に向かい、アレンは記録をつけていた。
――提案否決。
――配給延長三十日。
――財政赤字拡大予測。
ペンが止まる。
「……遅れますね」
エレナが、問いかける。
「何が」
「崩れるまでの時間が」
窓の外では、まだ歓声が続いている。
「……あなたは、悔しくないのですか」
「悔しいですよ」
即答だった。
「ですが、今はそれを優先しません」
少しの沈黙。
「私は、失敗を止めるために来ました」
「なら」
「失敗が起きなければ、介入できません」
エレナは、息を呑んだ。
遠くで、花火のような音が鳴る。
祝福のつもりだろう。
戦後処理官は知っている。
拒絶は、敗北ではない。
――“責任が、まだ可視化されていないだけ”だ。
そして責任が見える時、
人は必ず、誰かを探す。
そのとき、
自分の名が呼ばれることも、
もう分かっていた。
(第33話 了)
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