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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第31話 歓迎という名の予兆

 都市国家レルンは、戦争に勝った。


 正確には――

 “最後まで負けなかった”。


 内戦は終結し、旗は下ろされ、銃声も止んだ。

 だが街の中心に立つ建物の半分は焼け落ち、

 通りには仮設住宅が並び、壁にはまだ弾痕が残っている。


 それでも、人々は集まっていた。


「……すごい数ですね」


 馬車の窓から外を見て、エレナが呟く。


「想定以上です」

「歓迎、でしょうか」

「ええ。たぶん」


 城門前の広場には、人、人、人。

 旗が振られ、拍手が起き、誰かが名前を叫ぶ。


「戦後処理官だ!」

「本物か!?」

「英雄よりすごい人だって!」


 その言葉に、アレンはわずかに眉をひそめた。


「……訂正が必要ですね」

「え?」

「私は、英雄よりすごくはありません」


 馬車が止まり、扉が開く。


 その瞬間、歓声が一段大きくなった。


「ようこそ、レルンへ!」


 前に出てきたのは、一人の若い女性だった。

 簡素だが清潔な衣装。

 背筋はまっすぐで、目に迷いがない。


「私は、都市代表のミラ・エルフェルトです」


 彼女は、はっきりと頭を下げた。


「この街を代表して、あなたを歓迎します」

「……どうも」


 アレンが短く返すと、ミラは顔を上げ、まっすぐ彼を見る。


「あなたが来てくれたことで、

 この街は救われると、皆が信じています」


 その言葉に、再び歓声。


 アレンは、その“熱”を肌で感じた。


 ――期待。

 ――信頼。

 ――依存。


 どれも、扱いを誤れば刃になる。


 簡易庁舎に移動した後、早速会議が始まった。


「現状は把握しています」


 アレンは、机に資料を広げる。


「人口は戦前の六割。

 食料は三週間分。

 治安は――」


「その前に」


 ミラが、やんわりと遮った。


「数字の話は後にしませんか」

「……理由は」

「人が、疲れているんです」


 彼女は、資料ではなく、窓の外を示した。


「この街の人たちは、

 “分析される対象”である前に、

 “聞いてほしい存在”です」


 その言葉に、周囲の代表者たちが頷く。


 空気が、少し変わった。


「まずは、安心を与えること。

 それが復興の第一歩だと思います」


 アレンは、ミラを見つめた。


「安心は、供給できます」

「え?」

「ですが、持続しません」


 場が静まる。


「私が来た理由は、

 “安心させること”ではありません」

「では、何を」

「……崩れない仕組みを作ることです」


 ミラは、微笑みを崩さなかった。


「それは、後でいいと思います」

「後に回せば、手遅れになります」

「それでも」


 彼女は、はっきりと言った。


「今は、寄り添うべきです」


 沈黙。


 正しい言葉だった。

 少なくとも、この場では。


 会議は、結論を出さないまま終わった。


 外に出ると、まだ人々が集まっている。


「処理官さま!」

「ありがとう!」

「もう大丈夫なんでしょう?」


 その声に、アレンは答えなかった。


 代わりに、深く一礼した。


 歓声が上がる。


 だが、その裏で――

 胸の奥に、嫌な感触が残った。


 夜。


 仮設の執務室で、エレナが言う。


「……難しい街ですね」

「ええ」

「でも、歓迎されています」

「それが、一番の問題です」


 アレンは、窓の外の灯りを見る。


「期待が高すぎる」

「失望も、大きくなる」

「ええ」


 彼は、静かに言った。


「この街は、まだ“英雄の代替”を探している」


 そして、その役に――

 自分が当てはめられつつあることを、

 誰よりも早く理解していた。


 戦後処理官は知っている。

 最も危険なのは、拒絶ではない。


 ――歓迎だ。


 なぜなら、

 それは必ず「裏切り」に変わるからだ。


(第31話 了)

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