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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第29話 名前のない仕事

 最初の要請は、簡素な書簡だった。


 封蝋も紋章もない、ただの紙切れ。

 それでも、アレンはその重みを感じ取った。


「……中立都市ベルクより、復興支援の打診です」


 エレナが読み上げる。


「内容は?」

「“英雄や聖女では対処できなかった問題の整理を依頼したい”と」


 リーゼは、静かに息を吐いた。


「ついに、言葉にされたわね」

「ええ」


 アレンは、書簡を机に置いた。


「名前のない仕事が、必要とされています」


 それから数日で、同様の要請が続いた。


 国境紛争後の都市。

 内戦が終わったばかりの小国。

 魔物被害が収束した地域。


 共通しているのは、どれも“勝ったはずなのに、崩れている”場所だった。


「条件は、どこも似ています」


 クラウスが、一覧を眺めながら言う。


「英雄を前に出さない。

 奇跡を期待しない。

 だが、責任を引き受ける者がいない」


 セリアは、その言葉を聞いて目を伏せた。


「……私たちは、楽な物語に慣れすぎていたんですね」

「ええ」


 アレンは、淡々と答える。


「終わりの後には、拍手も称号もありません」

「あるのは?」

「帳簿と、苦情と、選択です」


 リーゼは、小さく笑った。


「随分、夢のない話」

「だから、誰もやりたがらない」


 その日の会議で、ひとつの案が示された。


「……機構を作ります」


 リーゼの言葉に、全員が顔を上げる。


「個人ではなく、役割として。

 国境を越えて、戦後を処理するための組織」


 机に広げられた設計図。


 名称は、まだ仮だ。


「戦後復興管理機構」

「随分、堅いですね」

「ええ。でも――」


 リーゼは、アレンを見る。


「英雄の名を冠するより、ずっと信用できる」


 アレンは、しばらく黙ってから言った。


「条件があります」

「聞きましょう」

「この組織は、私のものではありません」

「……え?」

「私は、最初の一人に過ぎない」


 クラウスが、目を細めた。


「君らしいな」

「属人化すれば、同じことが起きます」

「英雄化を、拒むわけだ」


 アレンは、はっきりと頷いた。


「私は、必要なくなる前提で作ります」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 夜。


 セリアは、回廊でアレンを呼び止めた。


「……あなた、怖くないのですか」

「何がですか」

「自分が、いなくなる未来が」


 アレンは、少し考えてから答えた。


「怖いですよ」

「それでも?」

「それが、正しい終わり方だからです」


 セリアは、胸に手を当てた。


「私は、まだ……手放すのが怖い」

「なら、しばらく一緒にいましょう」

「……はい」


 翌日。


 グランツ発の正式文書が、各国へ送られた。


 ――英雄でも、聖女でもない。

 ――奇跡を起こさない。

 ――だが、責任から逃げない。


 署名欄には、役職名だけが記されている。


 **戦後処理官**


 個人名は、なかった。


 戦後処理官は知っている。

 名前の残らない仕事こそ、

 最も長く世界を支えるということを。


 そして、その仕事は今――

 ようやく、始まったばかりだった。


(第29話 了)

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