第27話 英雄の末路
英雄レオンの軍勢は、速かった。
戦争を知る者たちで編成された制裁部隊。
旗を掲げ、整然と進軍するその姿は、いまだ威圧的だ。
「……英雄が来る」
城下町に、不安が広がる。
だが、恐慌は起きなかった。
アレンが、すでに“準備”を終えていたからだ。
「城門は閉じません」
「殿下!」
兵の声に、リーゼが視線を上げる。
「閉じれば、戦争になる」
「では――」
「迎え入れます。
ただし、“武装解除”の上で」
その決定は、賭けだった。
城門前。
英雄レオンは、馬上から城を見上げた。
「……逃げなかったか」
その声には、わずかな安堵と苛立ちが混じる。
「勇者レオン」
城門前に、一人の男が立つ。
剣も鎧も持たない。
アレンだった。
「ここから先は、戦争ではありません」
「黙れ」
レオンは、剣を抜いた。
「俺は、秩序を取り戻しに来た」
「それは、戦争です」
「違う!」
怒声が響く。
「俺は英雄だ!
この世界を救った男だ!」
アレンは、一歩も動かなかった。
「あなたは、戦争を終わらせました」
「そうだ!」
「ですが、“その後”を壊しています」
ざわめきが起きる。
制裁部隊の中にも、動揺が走った。
「王国は、あなたの判断で崩れた」
「嘘だ!」
「いいえ」
アレンは、静かに告げる。
「責任を、誰も引き受けなかったからです」
その言葉が、致命的だった。
レオンの剣先が、震える。
「……お前が、俺を否定するのか」
「否定しません」
「なら、なぜ」
「終わらせるためです」
沈黙。
次の瞬間、制裁部隊の後方で、声が上がった。
「……もう、十分だ」
「俺たちは、民に剣を向けるために来たんじゃない」
一人、また一人と、剣が下ろされる。
「英雄だから従ってきた」
「だが、今は違う」
レオンの顔が、蒼白になる。
「貴様ら……裏切るのか」
「いいえ」
兵の一人が、はっきりと言った。
「俺たちは、国を裏切らない」
その瞬間、英雄神話は崩れた。
レオンは、剣を落とした。
――英雄は、誰にも殺されなかった。
ただ、選ばれなかった。
王国への帰還途中、
レオンは消息を絶った。
逃亡とも、失踪とも、処刑とも噂された。
真実を知る者はいない。
だが、一つだけ確かなことがある。
――英雄は、世界の中心から消えた。
その夜、リーゼは言った。
「……終わりましたね」
「一つ、です」
アレンは、静かに答える。
「物語が」
城下町では、混乱は起きなかった。
むしろ、安堵が広がっている。
クラウスが、深く息を吐いた。
「……剣を振らずに、英雄を終わらせたな」
「剣で終わらせれば、神話は残ります」
「なるほど」
アレンは、夜空を見上げた。
星は、静かだった。
戦後処理官は知っている。
英雄の末路とは、死ではない。
――“必要とされなくなる”ことだ。
(第27話 了)
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




