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無能と追放された〈戦後処理官〉、英雄たちの失敗を全部押し付けられていただけでした 〜戦争は勝ったのに滅びる国で、俺は“後始末”を任された〜  作者: 風牙シオン


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第2話 追放者の価値

 王都を出る門は、思ったよりも静かだった。


 追放者の出立といえば、石を投げられ、罵声を浴びせられ、見世物のように送り出されるものだと、アレンは勝手に想像していた。だが現実は違う。門番は事務的に通行証を確認し、あっさりと門を開いただけだった。


「……以上だ。幸運を」


 その言葉に、皮肉も侮蔑もない。

 ただの“処理済み案件”。


 門が閉まる音を背に、アレンは王都から続く街道を歩き出した。


 持ち物は少ない。官服は没収され、残されたのは私服と革鞄だけだ。中身も確認されたが、書類の山を見て役人は露骨に顔をしかめ、「こんなものは価値がない」と突き返した。


 ――価値がない。


 その判断が、後にどれほどの意味を持つかも知らずに。


 街道の先、低い丘を越えたところで、アレンは一度立ち止まり、王都を振り返った。白い城壁は陽光を反射し、相変わらず堂々としている。


「……さて」


 小さく呟き、歩みを再開する。


 追放とは、つまり無所属だ。国に属さず、軍にも教会にも守られない。だが同時に、それは――どこにも行ける、という意味でもある。


 アレンは、無意識のうちに進路を北へ取っていた。


 王国の北。国境を挟んだ先にあるのは、小国グランツ。戦争の被害を最も受け、今まさに崩壊しかけている国だ。魔王軍の侵攻を受け、王国からの支援は後回しにされ、復興計画は紙の上で止まっている。


 アレンの頭には、すでに地図が浮かんでいた。

 難民の流れ。補給線。使われていない鉱山。破棄された条約。


 ――立て直せる。


 自分なら。


 その確信が、胸の奥で静かに熱を持つ。


 街道を半日ほど進んだ頃、道端で騒ぎが起きているのが見えた。荷馬車が横倒しになり、数人の男たちが怒鳴り合っている。


「だから言っただろ! 橋が崩れてるって!」

「王国の地図じゃ通れるはずなんだよ!」


 近づいてみると、商人と傭兵らしい一団だった。荷は食料と布。目的地はグランツだという。


 アレンは状況を一目見て理解した。

 橋は半年前の戦闘で損傷している。応急処置はされたが、重量制限がある。それを知らずに馬車を通そうとして、軸が折れたのだ。


「……それ、無理ですよ」


 思わず口を出していた。


 男たちが一斉にこちらを見る。


「なんだお前は」

「通れるかどうか聞いてねぇ」


 アレンは一瞬、言うべきか迷った。

 だが、放っておけばこの一団は足止めを食い、食料は腐り、グランツはさらに困窮する。


「橋の補強は仮設です。二輪までが限界。四輪の荷馬車を通せば、今みたいになります」

「……知ったような口を」

「代替路があります。南に半日回り道すれば、浅瀬を渡れる」


 商人の目が細くなる。


「そんな道、地図にゃ――」

「載ってません。軍用ですから」


 沈黙が落ちる。


 傭兵の一人が、低く言った。


「……こいつ、本物か?」


 アレンは答えない。ただ、地面に枝で簡単な図を描き、補給路と地形を示した。どこが危険で、どこが安全か。どの村に泊まれば交渉が楽か。


 説明が終わる頃には、男たちの表情は完全に変わっていた。


「……あんた、何者だ?」

「通りすがりの……元、役人です」


 “元”を強調する。


 商人は少し考え込み、やがて言った。


「グランツまで同行してくれ。礼はする」

「金はいりません」

「は?」


 アレンは首を振る。


「その代わり、王城に取り次いでください。条件交渉をしたい」


 男たちは顔を見合わせ、やがて苦笑した。


「……あんた、変わってるな」


 その日の夕方、彼らは回り道を取り、無事に進路を確保した。


 夜。野営地で焚き火を囲みながら、商人がぽつりと言う。


「グランツはもうダメだと思ってた」

「まだ、手はあります」

「本気で言ってるのか?」


 アレンは炎を見つめたまま、静かに答えた。


「戦争で国が滅びることは、そう多くありません。滅びるのは、戦後です」


 その言葉に、傭兵たちが黙り込む。


 アレンは確信していた。

 自分の価値は、剣の前では無力だった。だが、戦争が終わった世界では――むしろ、ここからが本番だ。


 一方その頃、王都。


 宰相ベルナールは机に山積みの書類を前に、眉をひそめていた。


「……なぜ、もう破綻している?」


 難民が暴動を起こし、賠償交渉が暗礁に乗り上げ、北方の復興計画が一斉に止まっている。どれも、昨日まで“問題なし”だった案件だ。


 部下が冷や汗を流す。


「戦後処理官が……いませんので」

「代わりは立てただろう!」

「……判断が追いつかず」


 ベルナールは歯噛みした。


 ――たった一人、追い出しただけのはずだ。


 その頃、アレンは北へ向かう街道を進んでいた。

 焚き火の残り香を背に、革鞄を肩にかけながら。


 彼はまだ知らない。

 自分が“拾われる側”から、“奪い合われる側”に変わりつつあることを。


(第2話 了)


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