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婚約者と秘密 *レイラ視点

 会場から出たのを見計らうと、クラウス殿下は私を気遣うように尋ねた。


「具合は大丈夫?」

「……誰のせいだと思っているんですか」

「え?」


 私は立ち止まると、堪えていた思いが決壊し、それをそのまま彼にぶつけるように口を開いた。


「っ、元はといえば、クラウス殿下が悪いんです!

 私がどんな思いで、今日ここへ来たか……っ、貴方に会えると思ったら嬉しくて、でもエスコート役は違う方にお願いしろと仰って!」

「レ、レイラ嬢? 落ち着いて」

「私はずっと貴方に会いたかった……っ」

「レイラ嬢……」


 もっと彼に気持ちをぶつけたいのに、上手く言葉にできなくて。

 その代わりに溢れた思いが涙となって頬を伝う。

 彼は黙って私に一歩近づくと、そっと私の頬を拭いながら言った。


「ごめんね。 君を試すような真似をしてしまって」


 彼はポンポンと私の頭を撫でながら言った。


「私は、いずれ国王となる身だ。

 今回のように、君と一緒に居られる時間を作れず、こんな風にこれから先も君に寂しい思いをさせてしまうと思ったら、君に私の婚約者になってほしいと言えなくて。

 もし、君に他の男性がいたら諦めようと思ったんだ。

 ……でも、出来なかった」

「!」


 彼はさらに一歩近づくと、私をギュッと強く抱きしめて言った。


「君を会場までエスコートしたのは、君の父上だった。

 それを見て内心凄くホッとする自分がいて。

 でも私が目を離した隙に、今度は他の男が君に触れているのを見て、許せなかった」

「! クラウス殿下……」


 彼はそっと身体を離すと、私を真っ直ぐと見て行った。


「もう一度聞くよ。 こんな私でも、君は側に居てくれる?」

「っ、そんなこと言わないで下さい」

「!」


 私は彼の手を取ると、驚くクラウス殿下に向かって言った。


「“こんな”ではありません。 私は、貴方だから一緒に居たいのです」

「! レイラ嬢……」


(街で会った時……、彼が名前を偽って出会ったあの時から、貴方に恋をしたの)


 私は握る手にそっと力を込めると、笑みを浮かべはっきりと言葉を口にした。


「是非宜しくお願い致します」


 私の言葉に、クラウス殿下は大きく目を見開くと、やがて目に涙を浮かべて、「こちらこそ」と柔らかな笑みを讃えてくれたのだった。





 その後クラウス殿下に連れられて向かった先は、夜会会場のバルコニー席だった。

 そこには今日は一段と素敵な格好をしたお姉様と婚約者でいらっしゃるイヴァン様のお姿があって。


「お姉様!」

「っレイラ!」


 私を見て破顔するお姉様の姿を見て、思わず走り寄ってお姉様の手を取る。

 その後に続いたクラウス殿下の言葉で、彼の計らいでお姉様方と会わせてくれようとしていたことを知り、その気遣いに感謝していると、彼はお姉様に向かって言った。


「私の声、ここまでは流石に聞こえなかったかな?

 レイラ嬢に先程、婚約を申し込んだのだけど」

「……え?」


 その言葉にお姉様はキョトンとして私を見るから少し恥ずかしくなりながらも頷き、お姉様の続く言葉に返事を返せば、お姉様はパァッと顔を明るくし、私に勢いよく抱きついてきた。


「お、お姉様!?」

「良かった……本当におめでとう、レイラ」

「ありがとう、お姉様」

 まさかこんなに自分のことのように喜んでくれるとは思わず、やはりお姉様は素敵だわ、と思っていると、そういえば今日、お姉様はイヴァン様と正式に婚約を発表されたことを思い出した私は、手を叩いて祝福すると、お姉様は心から幸せそうにはにかむ。

 私はそれから、と言葉を付け足した。


「でも、今日は一段と素敵ね! 皆がお姉様に釘付けになっていたわ」

「!? そ、そんなことはないわ。

 ほら、私は悪目立ちしてしまうから」

「何を言っているの、今日のお姉様は空から舞い降りた雪の妖精だと皆が噂していたわ」

「は!? ゆ、雪の妖精!?」


 会場をすぐに後にしてしまったけれど、お姉様が会場に入ってきた瞬間、皆がそう噂していたのを耳にして、私まで嬉しい気持ちになった。

 そう私が口にすれば、クラウス殿下もそれに同調し、イヴァン様を揶揄う。 イヴァン様は相変わらずクラウス殿下に対してはそっけない返事をするのだけど、お姉様を見る眼差しには確かにお姉様のことを大切にしているのが伝わってくるし、何より綺麗なお姉様をクラウス殿下からも隠すようにしたイヴァン様のお姿を見て、私は思わず素直に口にする。


「ふふ、イヴァン様はお姉様のことを溺愛しているというのは本当だったんですね。

 安心しました」

「で、溺愛!?」

「……クラウス」


 イヴァン様が殺気立ったのを見て、クラウス殿下は慌てたようにお姉様に向かって別れの言葉を述べると、お姉様方はそのまま一足先に会場を後にした。

 クラウス殿下とその場に残った私は、とりあえず座ろうかと彼に促され、二人長椅子に腰をかける。

 そして、クラウス殿下の方が話を切り出した。


「先ほどの君の言葉を聞いて思い出したよ。

 これから君のお父上……ラングレー伯に正式に婚約を認めて頂かなくてはいけないことをね」

「そうですね。 ……あの、申し上げにくいのですけど、最近のお父様はお姉様が婚約されたのもあって、それも大分渋られてお決めになったので、その……」

「あー、何となく分かった。 君を婚約者として認めてもらうには一筋縄ではいかないということだね……」


 クラウス殿下はそう言って天井を仰ぎ見る。

 私はそんな余裕のなさそうなクラウス殿下に向かって思わず笑ってしまう。

 どうして笑うんだ、と拗ねたように言う彼を見て、私はそんな彼に身を寄せて言った。


「私も、頑張ってお父様を説得します。

 クラウス殿下は素敵な方だって。 私が今まで初めてお慕いして、お側にいたいと思えた方だと伝えます」

「! ……レイラ嬢」


 クラウス殿下が驚いたように私の名前を呼ぶ。 私は少し恥ずかしくなって、慌てて話題を変えた。


「でも、説得するならば国王陛下にもお願いしなければなりませんよね?」

「いや、その心配は無用だと思うよ」

「え?」


 私が彼の言葉に思わず顔を上げれば、彼は少し恥ずかしそうに視線を彷徨わせて言った。


「……私が恋をしていることがとっくにバレていてね。 逆に早く会わせろと言っているよ」

「! まぁ……」


 殿下が恋をしていること、とは私への気持ちだろう。

 思わず二人で照れてしまって、何も言えずにいると、殿下は言葉を返した。


「まずは君の父上に何と言おうか。 出会いは街で、とは言えないだろう?」

「あ……」


 そうだわ、私が勝手に出歩いていたことが家族にバレてしまうのは良くないわよね。

 どうしよう、と彼を見上げれば、クラウス殿下は笑って私の手を取ると、その手を絡めるように握って言った。


「そうだね。 私たちの()()出会いの物語はこれから作ろう。

 そして、本当のことは私と君……、レイラだけの秘密だ」

「! で、殿下、今……」


 私の名を、と言おうとしたところで、私の言葉の続きは優しく重なった彼の唇によって阻まれたのだった。





次回、最終話です!

執筆次第更新します。

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