一年後、そして… *レイラ視点
それから私達は、何とかお父様を説得して無事に婚約を認められた。
そして、アーセント国王陛下と王妃殿下にもご挨拶をしに伺うと、お二人とも私が王城で侍女として働いていた(正確に言えば侍女に扮していた)うちの一人だと気付き驚いていたが、クラウス殿下が好意を寄せている女性だという言葉を信じ、詳細は聞かずすぐに婚約者として認めてくれた。
国王夫妻は温かな方々で、とても安心した。
その後、私は次期国妃として開かれた夜会で紹介され、本格的に国妃教育が始まったのだった。
婚約者として認められてから一年もの月日が流れ、今日はお姉様とイヴァン様の結婚式を迎えた。
(本当にお姉様、綺麗……)
お姉様方の結婚式は身内だけを呼んだもので小規模であったものの、温かみがあって何より仲睦まじい二人の様子を見て心から祝福した。
それと同時に、私はふと思ってしまう。
(良いな……)
私もあんな風にクラウスと結婚式を挙げたい。 そう思っているけれど。
(クラウスの口から、まだ一度も結婚の話は出たことがない)
彼が忙しいのは分かっている。
忙しい合間を縫って手紙のやり取りをしてくれていることも、最近になって“敬語を取ろう”と言ってくれたこともあって、以前よりずっと距離が縮まった気がする、けれど。
(やっぱり寂しい)
クラウスと会えるのは月に一度の二人きりのお茶会とたまに開催される夜会のみ。
特に最近は公務で忙しいと聞いているから、そうして二人で一緒に居られる時間を作ってくれるだけでもありがたいと思う反面、もっと彼の側にいたいと、欲張りになっていく自分がいて。
でも、我儘を言って彼を困らせてはいけない。
婚約者になったあの日、多忙である彼とそれでも婚約者になりたいと決めたのは私なのだから。
(クラウスの婚約者になれただけでも本当に幸せなことだもの)
私は今自分にできることを頑張らなくては。
国妃になるために学ばなければいけない知識は沢山あるのだから。
そう心に決め、パチンと軽く両頬を叩くと。
「レイラ」
「!」
そう不意に名を呼ばれ、ハッとして顔を上げれば、澄んだ青の瞳が私の顔を覗き込んでいた。
「ク、クラウス」
「ふふ、名前を呼んだだけなのに顔を赤くさせるなんて、レイラは可愛いね」
「っ、だって、直接呼び捨てにされるのは慣れてないもの……」
手紙で彼にレイラと書かれているだけでもドキドキしてしまうのに、大好きな声で、それも柔らかな表情を浮かべて言うものだから、破壊力が凄い……!と内心身悶えていると、彼はクスクスと笑いながら、「はい」と私にグラスに入ったグレープジュースを差し出してくれた。
私はそれをお礼を言って受け取り、火照った頬を冷ますために飲んでいると、彼が私をじっと見て言った。
「レイラは寂しくない?」
「え……?」
突然発せられたその言葉に、私は驚き彼を見上げて固まってしまう。
その問いかけにどう返事をしようか迷っていると、彼は眉尻を下げて困ったように笑って言った。
「そう言っても、君のことだから素直には言わないよね。
私のために、きっと君は沢山我慢してくれたと思う」
「……っ」
彼から紡がれる言葉の数々は、私の心を的確に読んだ言葉だった。
驚いて言葉が出ない私に彼は続ける。
「正直に言うと、私は寂しかった。 君に会いたくてたまらなかった」
「……! ク、クラウス」
「会えない間もずっと、君のことを考えていたよ。
レイラに会いたくて、触れたくてたまらないって」
刹那、彼は私を強く抱きしめた。
その力の強さは、会えなかった分の彼の寂しさが表れているようで、私は何も言えなくなってしまう。
そして、私の頭を優しく撫で言った。
「君の本当の気持ちも聞かせてほしいな。
私と、同じ気持ちでいてくれたら嬉しいのだけど」
「……私も同じ、です」
そう呟いた瞬間、涙が堰を切ったように溢れ出した。
私はギュッと彼の背中に腕を回すと、抱きしめ返しながら言った。
「ずっと、ずっと会いたくてたまらなかった……! 手紙だけじゃ物足りなくて、本当はすぐにでもお城に行きたいくらいだったけど、でも、貴方を困らせるような真似になってしまうと思うと出来なくて……、我儘を言っちゃダメだって、私は十分幸せなんだって自分に言い聞かせてたの」
「……レイラ」
「でも、寂しかった。 貴方に会えない時間は、本当に長く感じた……」
そう言って彼の胸に顔を埋めると、クラウスは「ごめんね」と口を開いた。
「どうしてもやらなければならないことがあったから……、予定よりも早く君と共に居られるように、準備をしていたら時間がかかってしまった」
「え……」
その言葉に目を見開けば、彼はそっと私から身体を離すと、私の手を握り口を開いた。
「レイラ、結婚しよう」
「……!!」
そのまっすぐな言葉に、私は一瞬呼吸をするのを忘れてしまった。
クラウスは少し屈んで私と目線を合わせると、微笑みながら言った。
「私が国王になるのと同時に、君と結婚したいんだ。
……今まで寂しい思いを沢山させたけれど、今度は城で一緒に暮らそう。
そうすればずっと、生涯君と一緒に居られるんだ」
「!! 本当に……?」
夢なのではないか、と確かめるために尋ねれば、彼は「うん」と大きく頷いてくれた。
それを見て私はこれが夢でないことを願いながら言葉を返した。
「っ、こちらこそ、末永くよろしくお願いいたします」
「! やったーーー!!」
「っ、きゃ!」
彼は私を軽々と横抱きにすると、クルクルとその場で回る。
慌ててギュッと首に抱きついたものの、私も嬉しくなって笑い声を上げれば、彼は私を抱きかかえたままその腕に力を込めると、囁くように言った。
「結婚したらもう、寂しいなんて感じさせないほどにレイラのことを愛すから。 覚悟しておいてね?」
「!? え、あ、あの!」
どこか艶めいたその言葉に顔を赤くする私だったが、彼は「結婚するのが楽しみだなぁ」とまた私をからかうように言うものだから、それに対し「もう!」と怒りつつ、彼と紡ぐ未来に思いを馳せるのだった。
それから更に5年もの月日が流れた。
今日は王城の庭の一角で、クラウスと私、それからお姉様とイヴァン様と共にお茶会を開いていた。
その4年ほど前から、お姉様とイヴァン様のお二人の子供が参加するようになり、そして今日、また新たな家族の一員が加わり、お茶会は賑やかに行われていた。
「ねえねえ」
「ん?」
なーに、と返事をすれば、お姉様と同じ翠の瞳を私に向け、肩くらいまで伸ばしたイヴァン様譲りの銀の髪をさらりと流した小さな女の子は、小首を傾げて口を開いた。
「いまねているの?」
そう私が抱いている彼女よりもっと小さな子……、すやすやと眠っている彼の顔を覗き込み言った。
それに対し、彼女の母親であるお姉様は柔らかく目を細め、人差し指を口に当てて言った。
「そうよ。 今ねんねしているところだから、しーっ、ね」
「うん。 しーっ、だね」
小さな彼女は同じように真似をし、人差し指を口に当てて笑うと、人形を持ってその場で静かに一人遊び始めた。
私とクラウスはその様子に顔を見合わせて笑みを浮かべ、言葉を交わす。
「良い子だね」
「えぇ。 この子も、早く大きくなるのが楽しみだわ」
私はそう言って、腕の中にいる我が子の額にそっと口づけを落とす。
その様子を見ていたお姉様は、イヴァン様に話しかけた。
「でも本当に、月日が流れるのはあっという間よね。 私達が出会ってから、もう7年くらいが経つのね」
「あぁ。 俺達の子も日に日に成長して可愛くなる一方だし……、君の父上が婚約を認めるのを渋った気持ちも分かる気がする」
「流石にまだ気が早いわよ、イヴァン。
……でもそうね、彼女達が大きくなったら、私達のように大切だと思える方と巡り合って、幸せになってほしいわ」
お姉様の言葉に、私達は頷く。
(そう、私達が出会えたのは、いくつもの偶然や奇跡が重なって、今こうして幸せな生活を送れているのよね)
そう思うと、本当にこの幸せがかけがえのないものだと改めて実感する。
「……この先、どんな未来になるのかしら」
そう私が呟けば、隣にいた大好きな彼……クラウスが優しく微笑む。
「そうだね、いくら予想しても未来は分からない。
でも、これだけは言えるかな」
彼はそう切ると、青空を見上げて言った。
「未来は自分の手で切り開くことが出来る。
……つまり、未来は自分次第で決めることが出来ると、子供達にも伝えたいな」
クラウスの言葉に、私達も頷き空を見上げる。
どこまでも広がる青空は、まるで私達の未来を祝福するかのように澄み渡っていたのだった。
(レイラ視点 END)
これにてレイラ視点、そして全編終了です!
いかがでしたでしょうか?
番外編を予定していたのですが、想定より短かったためレイラ視点のお話の中に入れさせていただきました。
お読み下さった皆様に、ドキドキワクワクしていただけていたら幸いです。
約4ヶ月ほどの長い連載をさせて頂きました。ここまでお読み下さった皆様、ブクマ登録やポイント評価など、本当にありがとうございました。
またどこかで作者の物語をお読み頂けたらとても嬉しいです。(新作は現在書き溜め中です)
最後に、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
2022.1.29




