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婚約者の彼女 *イヴァン視点

お待たせ致しました!

閑話2、イヴァン視点緩く更新していきます!

時系列はエピローグ前話の後のお話です。

 ガタゴトと揺れる馬車の中。

 決して舗装されているとはいえない足場の悪い道にも関わらず、隣で俺の肩にもたれかかってすやすやと眠る彼女……、リディアの姿を見て、ふっと笑みをこぼす。


(よく眠っているな)


 俺はそっとその華奢な身体を抱き寄せ、彼女がここにいることを決めてからの数ヶ月のことを思い出していた……―――





 リディアがノワールの地に残ると言ってくれてからすぐ、彼女の両親から手紙が届いた。

 その内容は、彼女のことが心配だから、一度ラングレーへ戻り経緯を説明に来るようにという手紙だった。

 彼女の両親が心配するのも無理はない。

 元はといえば、妹に求婚したはずの男の元へ、代わりに来た姉であるリディアがその男……、俺の婚約者になったのだ。

 レイラ嬢の口から説明してもらっただけでは誤解を解けないのは無理もないだろう。


 その考えは同じだったようで、リディアはその手紙を受けてすぐに一人で帰ると言った。

 だが、俺は心配になった。


(リディア一人で帰すのは、彼女が心許ないのではないか)


 リディアは邸の中でも良い待遇を受けていたとはいえないようなことを言っていた。 

 それに、以前来た彼女の父親もあまり感じの良い人柄ではないように見受けられた。

 だから、気が付けば『俺も行く』と彼女に告げていた。


 とはいっても、自分の仕事もあるためあまり長居は出来ない。

 何とか絞り出し用意できた時間は、ラングレーの地に滞在する二泊のみとなった。

 それでも、彼女は一人で行くと言った時より俺も行くと分かると、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 そんな彼女に礼の言葉を言われた時、俺は「礼を言われる覚えはない」と返すだけで精一杯だった。


 そんな彼女とラングレーへ向かう途中、休憩場所として彼女が気に入りそうな場所があることを思い出した俺は、御者に事前に頼み、その場所へ寄り道するよう頼んでおいた。

 実家へ帰ることに緊張をしているようだったから少しでも気分転換になったらと思い寄ってみたら、思いの外喜んでくれて笑みを浮かべる彼女の姿を見て、俺まで心が温かくなるように感じた。


 その上、彼女は俺に手作りのサンドウィッチまで作ってきてくれた。


(料理人以外の誰かの手で作ってもらったものなんて、生まれて初めてだ)


 しかも、彼女の手料理を食べられる日が来るとは。

 夢にも思わず凝視してしまっていると、俺がお腹いっぱいなのだと勘違いした彼女は少し傷ついた表情を浮かべ食べようとした。

 だが、食べない気などない俺は、その勘違いを否定しようと彼女が手に持ったサンドウィッチを一口口にする。


(……美味い)


 今まで料理を味わって食べたことなどなかった。

 だが、彼女がわざわざ作ってきてくれた、それも俺のためなのだと思うと、嬉しさがじわじわと込み上げてくる。

 それを彼女にそのまま伝えれば、やっとリディアは笑顔になった。


(やはり、リディアは笑顔が一番良い)


 時々こちらが恥ずかしくなるような、俺を試しているのかと疑ってしまうような言動をするのは困りものだが、そんな彼女を手放すつもりはないと再確認し、彼女の両親にどう許しを請おうかと頭の中で考えていたのだった。





 そうして邸へと向かった俺達を待っていたのは、両親とその家族だった。

 その方々との話を交えて、俺は感じた。

 リディアは愛されているんだと。

 だが、リディアにはその想いが伝わっていないらしい。 

 家族の言い分も、彼女の言い分もよく分かる分、もどかしくてならないが。


(これは、俺の出る幕ではない)


 彼女も家族も向き合わない限り、家族間の溝はなくならないだろう。

 リディアは家族にはっきりと俺の側を離れるつもりはないと告げ、俺を連れて家族との話し合いの場を後にした。


「ごめんね、イヴァン」


 彼女に連れてきてもらった場所は、以前俺が介抱してもらったあの小さな小屋だった。

 人が訪れないのだろうその場所は、埃が溜まってしまっている。

 落ち込んでいる彼女に向かって慎重に言葉をかけ、俺の考えも交えながら、家族と向き合うよう勧める。


(彼女には、俺と同じようになってほしくない)


 リディアには心から笑っていて欲しいから。

 そんな俺の思いは伝わったようで、彼女は家族と向き合い、無事に和解を遂げた。

 そして、彼女の家族に、リディアと俺の仲も無事に認めてもらうことが出来た。


 ……その前に行ったリディアの父親との対面での話し合いにはとても緊張したが。

 ちなみにその内容は、リディアは努力家だという娘自慢と、そんな彼女をどうやって幸せにしていくかを延々と問われた。

 それを彼女に聞かれた時は誤魔化してしまったが。

 一つ分かったことは、リディアの父親は彼女のことを素直に心配出来ない困ったタイプなのだということだ。(その分かりにくさと言ったら俺以上だと思う)


 そんなこんなでラングレー邸で過ごす最後の夜、彼女はロケットペンダントの中身を俺に見せてきた。

 その中には、俺が看病の礼にと走り書きで書いたメモだった。

 そのメモを大事そうに持ち、お守りなのだと言い切った。

 そんな彼女を見て、鳥の看病をつきっきりで行っていた彼女の献身的な姿が思い出された。


「君は、間違いなく俺の恩人だ」


 そう伝えれば、彼女は泣き出してしまった。

 どうすれば泣き止むかと考えた末、驚かせれば泣き止むのではないかと思い立った俺は、泣いている彼女のこめかみにそっと唇を寄せ、口付けを一つ落とせば、彼女は分かりやすく停止し、涙も止まった。

 そんな彼女に向かって笑みを浮かべ口にする。


「涙は止まったか?」

「っ、あ、えっと、止まった、かも……」


 完全に思考停止している彼女に向かって悪戯っぽく笑えば、彼女はようやく状況を理解して顔を真っ赤にさせる。

 その姿もとても可愛らしく思えたのだった。





 一難去ってまた一難とはまさにこのことだと思う。

 ラングレーの地から帰って来た俺達を待ち受けていたのは、王家主催の夜会への招待状……、しかもご丁寧にリディアにも名指して届いたのだ。


(王家からだと断れないことを知って送ってくるのは、あいつしかいない)


 腐れ縁のあいつ……、クラウスがまたいらんことを考えているのだろう。

 案の定、リディアは困った顔をしていた。

 無理もない、彼女には何故か悪い噂が絶えないのだから。

 噂の標的になるような場所……、もとい暇人共の集まり(烏合の衆)にわざわざ行くことはないと告げようとした俺に反し、彼女の心配はそのことではなかった。


(まさか、俺の婚約者として参加することに対して躊躇っているとは思わなかった)


 それも、俺の顔に泥を塗るんじゃないかといういらぬ心配ばかりして。

 いつも思うが、自分に対する卑下があまり過ぎるんじゃないかと伝えようとしたのだが、彼女はまた爆弾発言をしかけてきた。


「心配をかけてごめんなさい。

 でも、私が悩んでいたのはそうではなくて。

 むしろ、イヴァンとなら夜会に行きたいと思っていたわ」

「え?」

「イヴァンの婚約者として参加させてもらえるのは嬉しいもの。

 けれど、そうしたらイヴァンが私のことをもし手放したいと考えた時、婚約を断り辛くなってしまうでしょう?

 私は別にイヴァン以外と結婚をするつもりはないから、名前に傷がつくとか一切心配はないのだけれど」

「ちょ、ちょっと待て」


 そのこちらが嬉しくなるような言動を、何の躊躇もなくすらすらと述べられ、思わず制した俺に対し、彼女はキョトンとした顔で俺を見つめる。


(……本当、リディアはこういうことに鈍くて困る)


 彼女には、こちらもはっきりと言葉と行動にしなくては伝わらない。

 そう思った俺は、今思い出しても恥ずかしくなるようなことを、その時は必死に取り繕いつつ告げた。


「俺も、婚約者として側にいて欲しいと思うのは、今までもこの先も君以外にいない。

 ……俺に、夜会での君のエスコートをする権利を与えてもらえないだろうか」

「……っ!」


 彼女は、驚いたように大きな目を見開いた。

 暫く無言が続いたが、彼女は意を決したように跪く俺の前にそっとしゃがみこむと、目線を合わせ、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら頷いて言った。


「はい。 宜しくお願い致します」

「……!」


 嬉しさのあまり俺も思考回路が停止してしまったが、やがて彼女の言葉を飲み込んだ俺は、自然と笑みを溢したのだった。

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