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プロポーズ

 それから、イヴァンと夫人は少しずつ、一緒にいられなかった数年という空白の時間を埋めるように話を交わした。

 最初は何処かぎこちなかったけれど、言葉を交わしていくうちにその距離が縮まっていくのが分かった。


(……良かった、本当に)


 私も時には話に参加しながら、親子の会話を聞いていた。

 話を聞いている内に感じたのは、夫人は本当にイヴァンのことを愛しているということ。

 心から大切に思っているのが、イヴァンに向ける温かな眼差しを見て分かる。


 そして話を交わしている内に、夫人は私にも話題を振ってきた。


「リディアさんにお尋ねしても良いかしら?」

「はい、何でしょう?」

「リディアさんはイヴァンのことが好き?」

「!」

「は、母上、急に何を言い出すんですか」


 ほんのり顔を赤くして困った顔をするイヴァンに対し、夫人は「だって気になるんだもの!」とどこか嬉しそうに手を叩く。

 私はイヴァンにつられて顔が火照るのが分かりながらも、夫人の言葉に頷けば、彼女は「素敵!」と一層手を叩いて喜び声を上げた。


「では、どんなところが好きなのか聞いても良いかしら?」

「母上、本当もうやめてください……」


 イヴァンは呆れまじりに、でも気になるのかチラリと私を見てそう答える。

 私も突然の質問に「えーっと」と少し考えてから口を開いた。


「……最初は怖くて冷たい方なのかなと思っていたんですけど……、でも、本当は不器用なだけで心根は優しくて。

 彼と出会って、私自身も変わったんです。

 自分に自信を持てるようになったというか……、そう思えるようになったのも、全て彼のお蔭なんです」

「「!」」

「これで答えになるでしょうか……?」


 私が恐る恐る尋ねれば、夫人は黙ってしまった。


(や、やば、私何か変なこと言った!?)


 慌てて何か言わなきゃ、と思った私だったけど、次の瞬間夫人は身を乗り出して言った。


「……リディアさん」

「っ、はい」

「〜〜〜何て可愛いの!」

「は、はい……!?」


 夫人はパッと花を咲かせたように綻ぶと、イヴァンに向かって言った。


「イヴァン、良くこんな素敵な女性を見つけたわね!」

「そ、そうですね」


 イヴァンはその勢いに少し引き気味だったけれど、私を見て微笑み言った。


「……確かに、リディア以上に素敵な女性はいないと思う」

「……!」

「まあまあ! 相思相愛ね! 素敵……!」


 夫人はそう口にすると、今度は私に向かって言った。


「今度から私のこと、“お義母様”と呼んでくれないかしら!?」

「よ、よろしいのですか?」

「えぇ、勿論よ! 私、実は娘も欲しかったのよ!

 あぁ、今から二人の結婚が待ち遠しいわあ……!」

「!?」

「母上、リディアが困っているのでその辺にして下さい……」


 そんな会話が続き、お義母様との話し合いは、終始穏やかな空気の中で行われたのだった。






「お義母様とお話が出来て良かったね、イヴァン」


 私の言葉に、イヴァンは小さく笑って「あぁ」と口にした。

 お義母様とお別れをした私達は、夕日色に染まる空の下、帰路に着いた。

 その馬車の中で、隣に座った彼は息を吐いた。


「母上が話好きなことをすっかり忘れていた」

「でも、素敵なお義母さまだったわ。

 ……イヴァンは、お義母様に良く似ているのね」

「! そうか?」

「えぇ。 目元は多分辺境伯様に似ていると思うのだけど、顔立ちはお義母様にそっくりだと思うわ。

 特にイヴァンの時折見せるふわっとした笑い方とか、お義母様に良く似ているなって」

「……そうだろうか」

「あれ、もしかしなくても照れてる?」

「照れていない」


 分かりやすくそっぽを向く彼にクスクスと笑って仕舞えば、彼は「笑うな」と一言口にしてから「でも」と言葉を続けた。


「今日こうして母上と話が出来て良かった。

 改めてリディアに礼を言いたい。

 ありがとう」

「そんな……、私は何も。

 きちんと向き合うことを決められたのは、イヴァンの強さだよ」

「……リディア」


 彼はそう言ってギュッと私の背中に腕を回した。

 私もその広い背中に腕を回し、ポンポンとその背中を撫でる。

 彼はそっと離れると、「これで」と私の好きなふわりとした柔らかな笑みを浮かべて言った。


「俺と君の仲を認めてもらえた。

 つまり、いつでも結婚出来るということだ」

「け、結婚……!」


 イヴァンと両想いだと分かったのがつい先日で、その時もプロポーズめいたことを彼に言われていたけれど、どこか夢心地だった。

 それが急に“結婚”という二文字になると、一気に現実味が増す気がして落ち着かなくなる。

 そんな私に対し、イヴァンは顔を覗き込むようにして言った。


「母上の前でも結婚という言葉を聞いて困ったような顔をしていたが……、俺と結婚したくないか?」

「ち、違うの! その、理解が追いつかなくて」

「理解?」


 そう言っている間にも顔に熱が集中するのが分かり、私はその顔を見られないよう両手で覆いながら呟くように言った。


「……ついこの前、イヴァンと両想いだってことが分かっただけでも嬉しかったのに、結婚なんて……、これ以上幸せになったら罰が当たってしまうんじゃないかと思って……っ」


 顔を覆っていた手をイヴァンに取られた。

 ハッとして顔を上げれば、彼は目を細め愛しむように笑って言った。


「そんなの、俺の台詞だ。

 ……君とこの先もずっといられると思うと、幸せすぎてどうにかなってしまいそうだ」

「……っ」


 いつものイヴァンからは考えられないほど甘い言葉に、私はこれ以上ないほど顔が火照るのが分かるが、イヴァンはそんな私の顎に手をかけ、視線を逸らさずに言った。


「もう一度……、いや、何度だって言おう。

 リディア、君を愛している。

 これから先どんなことがあっても、君を手放さない。

 一生君を愛し抜くとここに誓う。

 リディア、君も俺と共に歩むことを誓ってくれるか」

「っ、もちろん! 

 私も、イヴァンのことを愛しています。

 ……私を、お嫁さんにして下さい」

「! ……あぁ。 必ず幸せにする」


 私達は互いに顔を見合わせ笑い合う。

 瞳から流れた涙を、彼がそっと拭ってくれながら、私達は幾度となく口付けを交わしたのだった。

次回、本編最終話です!

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