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通じ合う想い

「俺は君を……、君がこの前言ってくれた“愛している”という言葉を、信じても良いだろうか?」

「……!」


 イヴァンの言葉に目を見開けば、彼は私の手を握った。

 その手は微かに震えていて。


「俺にとってその言葉は、“呪い”だった。

 愛なんて不確かなものを信じることが怖かった。

 自分は一生、誰からも愛される資格も、愛する資格もないと、そう思っていたんだ」


 イヴァンはそこで一度言葉を切ると、「だが」とその先を続けた。


「君は違った。

 俺がいくら突き放しても、側にいることを望んでくれた。

 ……今度は俺が、その手を取ることを望んでも良いのだろうか?」

「っ、そんなの、良いに決まっているわ……っ」


 私の瞳から涙がこぼれ落ちる。

 これからも、イヴァンの隣にいて良いんだ。

 その嬉しさがじわじわと込み上げてきて、体中に喜びを駆け巡ると同時に目からこぼれ落ちる涙は止まることを知らない。

 そんな私の涙を、彼は困ったように笑いそっと拭ってくれる。


「俺は君に泣かれるのは苦手だと思っていた。

 多分その理由は、君を悲しませたくなかったからだ。

 ……随分と傷付けてしまったが、そんな俺でも許してくれるか?」

「イヴァンは、ずるいわ。

 そんな風に乞い願うなんて。

 私の答えなんて、とっくに分かっているでしょう?」


 イヴァンは微笑みを浮かべると、私の頭を引き寄せ、こめかみに口付けを落とした。

 私は恨みがましげに彼を少しだけ睨んでみると、彼は苦笑いを浮かべ、額を合わせると吐息が交じり合う距離で言った。


「誕生日の約束、果たすことが出来なくてすまない」

「ううん、イヴァンは無理をして誕生日の当日に帰ってきてくれたでしょう?

 それに、無事で帰ってきてくれただけで良かった。 本当に……」


 ギュッと彼の手を握れば、彼もその手を握り返してくれる。

 そして、口を開いた。


「本当は誕生日当日に言いたかったが、遅くなってしまってすまない。

 改めて言わせてくれ。

 誕生日おめでとう、リディア」

「ふふ、ありがとう、イヴァン。 凄く嬉しい」

「それともう一つ、君に伝えたいと思っていたことがあるんだ。

 聞いてくれるか?」

「!」


 私を見つめる瞳の奥に確かな熱が込められているのを感じ、予想されるその先の言葉に、私の心は打ち震えた。

 聞き逃さないようにしなければ、と震える心を落ち着かせるように深呼吸をしてから、やがてゆっくりと頷けば、イヴァンは金の瞳を柔らかく細め、今まで見たどんな表情よりも甘く、彼は形の良い唇で言葉を紡いだ。


「俺も愛している、リディア」

「!! ……本、当に? 夢ではないよね?」

「あぁ、夢じゃない。 俺がこの先も、生涯こんなにも大切だと思えるのは君だけだ、リディア。

 君が唯一の、俺の光だ」

「っ、イヴァン……!」


 耐えきれず、ギュッと彼の首にしがみつくように抱きしめる。

 泣きじゃくる私を笑って、彼はぽんぽんと優しくその背中を撫でてくれながら、私の肩に顔を埋めた。

 好きだ、愛しているとそう何度も告げて……。

 暫くそうしていたけれど、イヴァンは私から離れ、相変わらず涙でぐしゃぐしゃの私の顔を見て、笑って言った。


「本当に、リディアは泣き虫だな」

「っ、貴方のせいよ」

「そうだな」


 彼はそういうと、私を愛しむように見つめ、濡れた私の頬に唇をよせる。

 そのまま頬だけでなく、瞼や額、こめかみと口付けの雨を降らせる彼に、私はそのこそばゆさと恥ずかしさで彼の胸を軽く押しながら言った。


「イ、イヴァン、くすぐったい……」


 彼はその言葉に心から幸せそうに笑った後、額を合わせて悪戯っぽく笑って言った。


「いつまでも泣き止まないと、今度こそ唇にキスをするぞ」

「! ……良いよ」

「え?」


 イヴァンは私の言葉が予想外だったのか、驚いたように金眼を見開く。

 虚を突かれた彼の顔が何だか面白くて、もっと驚かせてみようと、彼のシャツをぐいっと引き寄せると、近付いた彼の唇に触れるだけのキスをする。

 その一瞬の出来事に、イヴァンは本格的に固まってしまったのだが、やがて状況を把握すると、少し顔を赤らめつつももう一度私に向き直ると、真剣な表情で言った。


「好きだ、リディア」

「っ、私も! イヴァンのことが大好きです」


 私達はそうして笑い合うと、今度こそゆっくりと、どちらからともなく唇を重ねたのだった。






 そんな甘い時間を過ごした私達は、恥ずかしくてお互いの顔を直視することが出来なかった。

 そして、会話も何処かぎこちなくなってしまうため、慌てて彼に向かって話題を転換しようと口を開いた。


「そうだ、イヴァン、何か食べたいものはある?

 食べられるものから食べて栄養をつけないとね。

 お粥なら食べられそう?」


 私の言葉にイヴァンは逡巡した後、「いや」と窓の外を見て言った。


「もう夜も遅いし、かえって腹に残る物は食べない方が良いだろう」

「確かに、それもそうね」


 でも、何も食べないわけにもいかないかしら……と考えていると、イヴァンがおずおずと口を開いた。


「……以前、君が看病してくれた時のように、林檎を切ってくれないか?」

「! うさぎリンゴのこと?」

「あぁ」


 イヴァンが「君が切っているところを見たい」と言う。

 私はその言葉が嬉しくて「分かったわ!」と言うと、早速廊下に控えていたニーナを呼び寄せ、林檎とナイフを持ってきてもらうよう伝えたのだった。

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