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望むもの

「君の誕生日を祝うには、何をすれば喜んでくれるんだ?」


 イヴァンの言葉に目を瞬かせる。


「誕生日? 私の……、あ!」


 私はあぁ、と口にした。


「そういえば、私の誕生日まで後三日だったわ!」

「……まさか、忘れていたのか?」

「あはは、そのまさかです」


 私の言葉に、イヴァンは深くため息を吐き、乱暴に黒髪をかきあげ言った。


「全く、君にはいつも驚かされる。 まさか自分の誕生日を忘れているとは……、君に気付かれないように色々考えていた俺の身にもなれ」

「そ、そうだったの!? ごめんなさい。

 だけど、本当にすっかり忘れていたのよ」


 最近は淑女教育の勉強しか頭になかったから、つい先日まで覚えていた自分の誕生日が頭から抜けていた。

 イヴァンは、もう一度息を吐き口を開く。


「そんなことだろうとは思っていたが、君らしいと言えば君らしいな。

 自分が誕生日だということを一言も言わないから、クラウス伝に聞いて驚いたくらいだぞ」

「ど、どうしてクラウス殿下がご存知なの?」

「レイラ嬢から聞いたんだろう」

「なるほど……」


 その言葉に納得すれば、イヴァンは「納得するな」と私の頭を軽く小突き言った。


「人のことばかりでなく自分のことにもっとかまけろ。

 君は、自分のことを大切にしなさすぎる」

「そ、そうかな?」

「絶対にそうだ」


 そう言い切る彼に思わず苦笑いすれば、イヴァンは「さて」と口を開いた。


「これで君の誕生日を堂々と祝えるな。

 改めて何が欲しい?」

「え、えぇ!? もうこれだけ頂いたんだもの、十分すぎるくらいだわ!」

「これはただの俺の自己満足に過ぎない。

 だから、後は君が本当に願うことを叶えたい」

「わ、私の願い?」

「あぁ」


 イヴァンの言葉に、私は少し考えた後、恐る恐る尋ねた。


「ねえ、イヴァン。 それって物でなくても構わない?」

「? あぁ、君が願うのであれば」


 イヴァンの言葉に、私は「困らせてしまうかもしれないけれど」と口を開いた。


「私の誕生日の当日、少しの間だけでも良いから、私と一緒にいてほしい」

「……!」


 その言葉に、イヴァンは大きく目を見開き口を閉ざす。

 そんな様子に、私は慌てて言葉を続けた。


「む、無理はしないで! イヴァンが忙しいことは分かっているし、自分でも我儘だと思っているし……」

「あ、いや、そうではなくて。 そんな願いで良いのか?」

「え?」


 イヴァンの言葉に思わず聞き返せば、彼は「そうか」と口にしやがて頷いた。


「分かった。 時間を作ろう」

「ありがとう、イヴァン」


 私が礼を言えば、彼は思わずと言った風に口にした。


「しかし、驚いたな」

「どうして?」

「君が物より俺といる時間が欲しいと言うなどとは思わなかった」


 彼の言葉に、私は少し間を置いてから言った。


「確かに、形に残る物でも何でも、頂いた物は嬉しいけれど……、それよりも、今はイヴァンといられる時間を大切にしたいの」

「!」


 イヴァンは驚いたように目を見開いた。


(イヴァンに祝ってもらえるのなら、彼と共に居られる時間が欲しい。

 形の残る物も素敵だけれど、何よりも今一番欲しいのは、彼と笑い合っている時間だから)


 イヴァンは少し黙っていたかと思えば、突然ふっと笑みをこぼした。


「わ、私何か変なことを言った?」

「……いや、確かに君らしい願いだなと思って。 俺もまだまだ君のことをわかっているようで分かっていないということが判明した」

「!」


 彼はそう言うと、私の手を再度引き歩き出した。


「やはり、それだけでは足りないと思うから、形の残る物も何か贈らせてくれ。

 君が欲しい物ならば何でも良い」

「わ、私の欲しい物?」


 そうは言っても、お洋服や日用品は全て買ってもらっているし……、と考えた結果、ふと視線を胸元に逸らして、あ、と声を上げた。


「イヴァン、私これが欲しい!」





「本当にそんな物でよかったのか?」


 帰りの馬車の中、何度もそう尋ねてくるイヴァンに、私は決まって答える。


「そんな物なんかではないわ! 大事な宝物よ」


 私の言葉にイヴァンは「君が気に入っているのなら良いが」と困惑気味に言った。

 私は胸元で揺れる新しいロケットペンダント……、イヴァンに頼んで買ってもらったそれを手に取ると、自然と笑みが溢れた。

 そう、私が欲しいと願ったのはこのロケットペンダントなのだ。

 このペンダントには、イヴァンと初めて出会った時にもらったメモが入っている。

 それを入れるペンダントも、イヴァンからの物だったら嬉しいと思ったのだ。


「ふふ、嬉しい」


 私は何度も首元につけたペンダントを眺めていれば、イヴァンは困惑気味に言った。


「君は本当、装飾品には興味がないんだな。

 そんな安物で本当に良かったのか?」

「これが欲しかったの。

 ……このペンダントもメモも、イヴァンから貰った大切な宝物だから。

 私にとってはお守りのようなものよ」

「そういうものか?」

「えぇ! これなら肌身離さずつけられるもの」


 イヴァンはその言葉に目を見開いた後、「本当にお前は……」と何か呟いた。

 そして、急に私がつけていた茶のウィッグを取ったかと思うと、現れた金色の髪を乱暴に撫でた。


「わわ、ちょっとイヴァン! 急に何!?」


 驚いた私はその手を掴み声を上げれば、こちらを真っ直ぐと見つめるイヴァンと視線が交じり合う。

 その瞳の奥に宿る熱っぽい視線に、私は言葉を失い見惚れてしまう。

 そして、イヴァンは口を開いた。


「……三日後の誕生日、君に話したいことがある。

 聞いてくれるか」

「! ……えぇ、もちろん。

 イヴァンの話、聞きたいわ」


 私がそうイヴァンに頷けば、彼は何処かホッとしたように温かな笑みを浮かべてくれる。


(イヴァンが私に話って何だろう?

 改めて伝えてくれることって……)


 彼の熱を帯びた視線から導き出された答えに、私は一人身悶えてしまう。


(でも、誕生日の日、私といる時間を作ってくれるんだ)


 それだけで嬉しいと、ロケットペンダントを眺めながら自然と笑みを零したのだった。


 だけど、そんな幸せを脅かすような出来事が私達に襲いかかるなんて、この時の私達は知る由もなかった。


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