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伝えたい思い

 お母様とイヴァンの話に花を咲かせていると、侍女がお父様が私達を呼んでいると伝えに来た。


「あら、私も?」

「はい、奥様もご一緒にとのことです」

「分かったわ。 では、行きましょう、リディア」

「はい」


(話し合いに決着がついたということかしら?

 イヴァンはお父様と一体何の話をしていたのかしら……)


 そんなことをぐるぐる考えながら、お母様と共に隣室にいるイヴァンとお父様の元へ向かう。

 対面に座っているお父様達の横にお母様が、そしてイヴァンの隣には私が座る。

 チラリとイヴァンの方を見れば、彼は私の視線に気付き微笑んだ。

 お父様は咳払いし、私達を振り向かせたところで重い口を開けた。


「……二人の婚約についてだが、私は反対だ」

「「!」」


 私とイヴァンは思わず息を呑む。

 それでも口を開こうとすれば、お父様はそれを制するように「だが」と言葉を続けた。


「ノワール辺境伯様が二人の仲を認めているというのに、私が認めないわけにもいかない」

「……それは、つまり」


 私の言葉に、お父様は目を閉じて静かに言った。


「婚約を認める」

「「……!」」


 私達は互いに顔を見合わせた。

 イヴァンが笑みを浮かべている姿を見て、私は嬉しさのあまり飛び上がりたい気持ちになったが、何とか堪える。

 それでも嬉しさが込み上げて来て、両手で口元を押さえれば、お父様は「ただし」と言葉を続けた。


「リディアは定期的に連絡をよこすこと。

 そして、一ヶ月に一度は顔を見せること。

 ……これが条件だ」

「! ……はい、分かりました。 お父様」


 お父様の言葉に頷けば、お母様はクスクスと笑って言った。


「あらあら、貴方ったら。 

 寂しいなら寂しいと口に出さなければ、またリディアに誤解されてしまうわよ?」

「余計なことを言うな」


 お母様の言葉に、私は目を見開きお父様を見れば、お父様は一所懸命視線を逸らしていた。

 その姿にお母様の言っていたことは本当だったんだと気付き、私は頷き言葉を口にした。


「約束はきちんとお守りします、お父様。

 私の故郷は、この地ですから」


 その言葉に、お父様は驚いたように目を見開く。 私はそんなお父様に向かって微笑んでみせたのだった。







「お父様からお許しが出て本当に良かったわ」

「あぁ、そうだな」


 私の言葉にイヴァンが同意する。


「そういえば、イヴァンはお父様と何をお話ししたの? 私とお話しした時は、婚約については良い顔をしていなかったのに」


 私はイヴァンがお父様と何を話したのかが気になっていた。

 お父様が婚約を決めたのには、多分イヴァンと話をしたからではないかと思うから。

 その言葉に、イヴァンは少し逡巡した後、「内緒だ」と何処か慌てたように言った。


「えぇ、どうして?」

「君の父上と約束したからだ」

「お父様と? そんなに仲良くなったの?」


 私が驚き声を上げれば、イヴァンは「まあ」と意味ありげな相槌をしてから言った。


「とにかく、君の父上は悪い人ではないということが分かった。

 本当にただ、君のことを心から心配していたようだ」

「……それ、お母様からも聞いたのだけど、全然分からないわ。

 だって分かりようがないもの」

「まあ、あの態度ではそうだろうな」


 イヴァンは「俺が言えたことではないが」と苦笑混じりに言うものだから、私もつられて笑ってしまう。


「でも、イヴァンは優しい人だって私知ってる。

 誤解されてしまうところはあるかもしれないけれど、それでもイヴァンのことをしっかり見ている人なら分かるわ」

「! ……俺のことを、優しいだなんて言うのはお前くらいだ」

「そうかな?」

「そうだ」


 イヴァンが腕を組みそっぽを向く。

 その耳元がまた赤いことに気が付き思わず笑みをこぼす。


「ふふ、イヴァン耳が赤いわ」

「なっ……、そ、そんなことはない」

「照れているの?」

「照れていない」


 そんなやりとりをしてから、私達は顔を見合わせクスクスと笑う。


「そういえば、イヴァンに伝えておきたいことがあった」

「何だ」


 私は肌身離さずつけているロケットペンダントを取り出すと、そのペンダントを開ける。

 そこから出てきたメモをイヴァンに手渡すと、イヴァンは首を傾げながらそれを開いて、驚いたように言った。


「これは、あの時の」

「うん。 イヴァンの看病をした時の、イヴァンからの置き手紙」

「これをずっと持っていたのか?」


 イヴァンの言葉に、私は頷く。


「そう。 私、イヴァンが回復した日、熱を出してしまったの。

 それで、レイラが私の代わりに林檎を持って行ってくれて……、その翌日にイヴァンからのメモを見つけたってレイラが渡してくれて。

 このメモは、その日から私の心の支えになった」

「……そんな走り書きのメモ一つでか?」

「イヴァンにとってはたしかにそうかもしれない。

 けれど、私にとってはお守りなの。

 貴方を助けることが出来た。 

 私でも役に立つことが出来たっていう証だから」


 私はイヴァンの手に載るメモを見て、顔を綻ばせる。

 イヴァンは手元に視線を落としてから、「そうか」と呟くように言った。


「だから俺は、リディアとレイラ嬢とを勘違いしてしまったんだな。

 リディアが熱を出したのだって、俺の介抱をつきっきりでしてくれていたからなんだろう?」

「……っ」

「鳥の看病をしていた君も、四六時中側を離れることはなく看病をしていたのを知っている」


 その言葉に私は「知っていたの?」と尋ねれば、彼は少し目を逸らして小さく頷き言った。


「君がどこまでやるのか、気になったんだ。

 ……鳥の世話をする君を見て、俺のことも同じように看病してくれていたと考えたら、君の言葉を信じなかった俺が愚かに思えてきて。

 君にはいくら謝っても、いくら感謝してもしきれない。

 君は、間違いなく俺の恩人だ」

「……!」


(イヴァンが、認めてくれた)


 イヴァンが私が恩人であるとはっきりと口にして認めてくれたのは、これが初めてで。

 不意に涙が溢れそうになる。

 イヴァンは慌ててハンカチを取り出すと、私の目元を拭った。


「待て、泣くな。 前から言っているだろう」

「だって、イヴァンが嬉しいことを言ってくれるから」


 ポロポロと涙をこぼす私を見て、不意にイヴァンが口を閉ざし、真剣な表情になる。

 突然のことに驚き、そのまま彼を見つめてしまっていると、イヴァンはそのまま私に顔を近付けて……、思わずギュッと目を閉じると、訪れたのは頭に回った彼の温かな手と、こめかみに触れた柔らかな感触だった。


「!」


 驚き目を開けば、イヴァンはそっと私から身体を離し、尋ねた。


「涙は止まったか?」

「っ、あ、えっと、止まった、かも……」


 何が起きたのだか把握出来ずに呆然とする私を見て、イヴァンは悪戯っぽく、何処か妖艶に笑う。

 それでようやく我に返って、私は熱くなる頬を手で抑えたのだった。






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