表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/66

戸惑い

ブクマ、評価、それから誤字脱字のご指摘ありがとうございます!

 それから数時間後、見慣れた景色の中に立つ邸が見えてきた。


「あれがラングレー邸か」

「えぇ」


 ギュッと無意識のうちに拳を握ると、イヴァンは何も言わずただそっと上から包むように、手を握ってくれた。






 そうして緊張した面持ちでいる私を一番に出迎えたのは。


「お姉様!」

「!? レイラ……」


 一月ぶりに会う妹のレイラが、扉が開かれた瞬間私に抱きついてきたのだ。


「レイラ、ただいま。 お父様方に説明してくれてありがとう」

「いいえ、私は結局お姉様の役に立てなかったわ。 お父様を説き伏せるのには失敗したもの」

「そんなことないわ! 今日だって、貴女がいてくれるだけでとても心強い」


 そうレイラに向かって笑みを浮かべれば、レイラはようやく安心したように笑みを浮かべた。

 そして、姿勢を正すと、今度はイヴァンに向かって淑女の礼をして言った。


「ご無沙汰しております、イヴァン様」

「あぁ。 色々と面倒をかける」

「! ……はい」


 レイラは少し驚いたように目を見開いたものの、ふっと微笑みを返し頷いた。

 レイラは「お部屋まで執事がご案内致します」と言い、イヴァンは執事に連れられ、これから泊まることになる部屋へと向かった。

 その姿を見送ってから、私もレイラに連れられて元の自分の部屋へと向かう。

 そうして廊下を歩いている内に、一つ疑問が浮かんだ。


「ねえ、レイラ。 邸の侍女も侍従も皆知らない人達ばかりなのだけど……」


 小声でそう尋ねた私に対し、レイラは「あぁ、そのことね」と少し考えたようにしてから言った。


「お姉様が此処へ来られる少し前にね、お母様方がこの邸の使用人を一掃したのよ」

「……え!? 一掃したって……、それはどうして」


 レイラはその言葉に曖昧に笑い、「それはお母様方から聞いた方が良いと思うわ」とだけ言って黙ってしまった。


(つまり、使用人を一斉解雇して新たに雇用したということよね。

 どうして? 今まで一度もそんなことはなかったのに……)


「だから、お姉様も以前より過ごしやすいと思うわ」

「それって」

「着いたよ、お姉様。

 後でまた呼びに来るから、それまでゆっくりしていて。

 今日はお兄様もお話に参加されるって」

「!? お兄様も? どうして?」


 お兄様は次期ラングレー伯爵家の跡取りとして、イヴァン様同様公務で忙しいはず。

 それに……。


(私、お兄様とは長らく口を聞いていないもの)


 レイラとは、手の傷の件もあってあの時に和解をしたのだけど、未だお兄様とは距離をとったままだった。

 それは、私が一方的にお兄様を避けていたから。


(お兄様は優しかった。 けれど、私にはその優しさが辛かった)


 お兄様はレイラと同様成績から容姿まで、何をとっても完璧だった。

 その上、性格まで良い。

 だから結局、私はそんなお兄様とも比べられる対象になってしまっていた。

 その度、お兄様は気を遣って言うのだ。


 “誰にでも得手不得手がある。 リディアはリディアにできることを、見つけてやれば良いんだよ”

 と。

 その言葉は、当時の私を深く傷付けた。


(お兄様は優しい。 けれど、私はその思いを曲がってとった。 

 “努力をしたところでどうせ出来ないのだから諦めろ”と言われているようで)


 私は圧倒的努力型の人間だ。

 努力をしても出来るかは定かでなかったけれど、天才型のお兄様やレイラとは根本的に違うのだと。

 私自身自覚をしていたからそう告げられてショックだった。

 それからだろうか、お兄様と自然と距離を取るようになったのは。


「……お姉様? 大丈夫?」

「だ、大丈夫よ」

「何かあったら呼んでね」

「ありがとう」


 レイラは気を遣って、すぐに部屋を出て行った。

 一人部屋に残った私は、ふーっと長く息を吐き、皺一つないベッドの上に寝転がり、天井を見上げた。


 ただでさえ両親と正面から話をするのは避けたかったのに、まさか疎遠となっていたお兄様まで話に参加するとは。

 不出来な私を、彼らがどう思っているのか知るのが怖くて。


(……一気に気が重くなってしまったわ)


 それに、イヴァンが一緒に来てくれたとはいえ、イヴァンの邸に住むようになった理由を上手く説明する自信がない。


(だって、私の立ち位置は中途半端だもの)


 私は、イヴァンの婚約者として彼の側にいることを決めた。

 けれど、この婚約者という立ち位置がいつまで続き、その行く末がどうなるかは分からない。


(イヴァンが私と、この先もずっと一緒にいてくれるとは限らないもの)


 イヴァンが私のことをどう思っているのか分からないけれど、彼は私と一緒にいる中で自分の気持ちに決着をつけたいと言っていた。

 それがずっと一緒にいたい、つまり結婚したいという気持ちになってくれるかは、彼の気持ち次第で。


(絶対に振り向かせてみせると意気込んだのは良いものの、まさかこうして両親に説明に来るとは思わなかったもの)


 それに、イヴァンは当初勘違いとはいえ、レイラに求婚していたわけだし……。

 レイラが粗方説明してくれたとは言っていたけれど、果たしてどこまで伝わっていて認めてくれるのかどうか。


「……はぁ」


 私は再度ため息を吐き、考えを放棄するため目を閉じたのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ