お姉様とイヴァン様 *レイラ視点
レイラ視点、最終回です。
その夜会以来、私とクラウス殿下は月に2度程会うようになっていた。
ある日は城下で、ある日は夜会で。
城下に行く時はクラウス殿下がいる時間を教えてもらい、その時間に私が会いに行けたら会いに行く形をとった。
クラウス殿下とお話しする時間は、本当に楽しかった。
彼が街にいる間は、偽って“クリス”と名乗っている時も感じたが、明るく優しい方だった。
だから、彼に恋心を抱くのにも時間はかからなかった。
ただ、彼からそういう話はなく、両親にも何と説明すれば良いか分からなかったため、私達の繋がりはあやふやなままだった。
そんな時だった。 18歳の誕生日にまさか、見ず知らずの方から求婚されるだなんて。
いきなりの話に、頭と心が追いつかなかった。
ノワール辺境伯の方で、とても気難しい方だということは噂で耳にしていた。 だが、噂で耳にする程度で、彼は夜会を嫌っているらしく、直接お会いしたこともない。
そんな方から求婚されるとは思ってもみなくて。
(それに、嫁ぐのは一週間後……)
一週間後に私は、彼の元へいかなければいけない。
断れない相手だということは分かっている。
けれど。
(私は……、何も伝えないまま、クラウス殿下ともお別れしなければならないの?)
そんなのは嫌だ……!
私の足は、自然と城下に向かっていた。
今日は彼がいるとは聞いていない。
けれど、無性に彼に会いたくなって、来てしまった。
(……なんて、いるわけがないよね)
何をしているんだろう、私。
帰ろうとした瞬間、その腕を誰かに掴まれた。
ハッとして顔を上げれば、そこには。
「っ、レイラ嬢!? どうしてそんな格好で城下へ……、駄目だと行っただろう?」
「……っ」
「レ、レイラ嬢?」
クラウス殿下の顔を見た瞬間、私は思わずポロポロと涙を溢してしまうのだった。
「え、イヴァンから求婚された!?」
「イヴァン様とお知り合いなのですか?」
場所を変え、見晴らしの良い丘の上に連れてきてくれたクラウス殿下に、イヴァン様から求婚されたことを伝えれば、彼は驚いたようにそう口にした。
黒い噂しか耳にしないイヴァン様のことを呼び捨てした彼が気になりそう尋ねれば、彼は「知り合いも何も」と戸惑ったように口にした。
「私と彼は幼馴染だからね。 ついこの前会ったばかりだけど……、まさか、彼を助けた恩人がこんなに近くにいたとは思わなかった」
「恩人?」
「そう。 君は半年前、イヴァンを助けた恩人なのではない?」
「……それ、私ではありません」
「へ?」
思わず殿下と二人、顔を見合わせてキョトンとしてしまう。
殿下の言葉で繋がった。
(そうか、イヴァン様が求婚をして来た理由は、お姉様が彼を助けたからってこと!?)
なら、イヴァン様はお姉様と私とを勘違いして求婚してきたんだわ!
「クラウス殿下、イヴァン様を助けたのは私ではなくお姉様です!」
「え?」
話が読み込めていないクラウス殿下に、私は一から説明した。
半年前、イヴァン様を助けたのはお姉様であることを。
その説明を終えると、クラウス殿下は「なるほど」と腕を組んで言った。
「では、イヴァンは完全に君とそのリディア嬢とを勘違いして求婚してきたということだね。
……でも参ったな」
「はい?」
クラウス殿下の言葉に首を傾げれば、殿下は「いや」と顎に手を当て考え込むように言った。
「イヴァンはね、悪い奴ではないんだけど……、職業柄というのかな、少々思い込みが激しいところがあってね。
例え恩人は君ではなくリディア嬢だと言ったとしても信じないと思うんだ」
「っ、どうして」
「彼は自分の目で見たものしか信じないからね。
それに私は気にしていないけれど、リディア嬢には悪い噂が流れているだろう? 彼は夜会には殆ど訪れないから、社交会の噂についてはその情報だけを頼りにしているところがある。
だから、リディア嬢が真の恩人であるとは認めにくいのではないかと」
「っ、そんな! それはあんまりです……」
ギュッと思わず拳を握る。
(お姉様はイヴァン様の方をとても気にしていらした。 そんなお姉様の気持ちは痛いほど分かるし、私だってお姉様の手柄を横取りするような真似は嫌だ。
それに、私はイヴァン様との結婚は望んでいないのに……)
思わず俯いてしまった私に対し、クラウス殿下が口を開いた。
「イヴァンの勘違いで君に求婚をした、か……」
クラウス殿下はぶつぶつ独り言を呟く。
私はそんな彼に向かって口を開いた。
「私、お姉様に一ヶ月だけ時間を下さいってお願いしたんです。
イヴァン様がまさか、私とお姉様を勘違いしているだなんて思わなかったから……、とにかく、結婚するということに頭が追い付かなくて。 それで、咄嗟に一ヶ月だけってお姉様にお願いしたんです」
そう口にすると、クラウス殿下は何かを閃いたように言った。
「一ヶ月だけ、時間を下さいってリディア嬢に言った、ということだよね?」
「はい……」
「それなら、そのままレイラ嬢が失踪したフリをして、真の恩人であるリディア嬢とイヴァンをとりあえず会わせる、というのはどうかな?」
「……はい!?」
というクラウス殿下の御提案の末、私は失踪したフリをし、クラウス殿下の城の客間に内緒で匿って頂いていた。
どうやって切り抜けたかというと、侍女の装いをして行動するようにしていた。
(まさか私が城にいるだなんて、誰も思わないわよね……)
クラウス殿下が外の情報を教えてくれていた。
イヴァン様を筆頭に、お姉様も私の安否を心配して捜索していると。 それを聞いて心苦しかったが、お姉様のためだと自分に言い聞かせてずっとクラウス殿下と共にいた。
でも、やはり私のせいでお姉様がイヴァン様の元で人質同様に邸にいるということを知り、クラウス殿下に頼んでイヴァン様とお姉様を呼び出してもらい、二人の様子を隠れて窺うこともした。
そして、約束の一ヶ月後にイヴァン様の元を訪れてみれば、確かにイヴァン様は半年前にお姉様が救った人物で間違いなかった。
そんな彼にお姉様はどうしているかを尋ねれば、お姉様は風邪を引いて倒れたと言う。
それを淡々とイヴァン様が語るものだから、思わず怒鳴ってお姉様の元へ駆け出してしまった。
ベッドに横たわっていたお姉様の姿を見て、私の選択はこれで合っていたのか、何度も自問自答したが、お姉様はイヴァン様の元に残ることを選んだ。
(お姉様こそが命の恩人だと、イヴァン様も認めたのよね)
良かったと心から安堵した。
イヴァン様は話してみた感じ気難しそうな方だったから、本当にお姉様は大変だっただろうと思う。
(……私とイヴァン様ではきっと、相性が合わなかったわ)
そんなことを思わず考えてしまうほどだったが。
何度もお姉様に帰ろうと言っても、お姉様は首を縦には振らなかった。
(それほど、あのイヴァン様をお慕いしているということよね)
お姉様は自らの手で幸せを掴もうとしているんだ、私も頑張らなくては!と気合を入れると、お姉様にお返事を返すため、新しいレターセットを取り出したのだった。
(レイラ視点END)
レイラ視点終了です!いかがでしたでしょうか。
第1章閑話はこれにて完結です。
第2章は現在書き溜め中ですので、連載開始まで少々お時間を頂きます。
引き続きお読み頂けたら幸いです。




