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ゲーム *レイラ視点

「今日はありがとうございました」


 目当ての品を買うことが目的だった私は、その花束を抱え礼を言うと、クリスさんは「どういたしまして」と返してから言った。


「城下はどうだった?」

「お陰様でとても楽しかったです! 本当にありがとうございました」

「楽しんでもらえたようで何よりだよ。

 では、今日はこの辺でお別れにしよう」

「ま、待って下さい!」

「!」


 咄嗟に、彼のマントを掴む。

 その行動に驚いたような彼を見て、私もハッとして慌てて手を離して言った。


「あの……、もしよろしければ、またここで会いませんか?」

「え?」

「あ、その……、今日は貴方に助けてもらってばかりで、その、ブレスレットのお礼もしていないのでお礼をしたくて!」


 そんな必死な言葉に、彼はぷっと吹き出したように笑うと言った。


「そんなに恩を感じてくれていたんだね。

 ありがとう。 だけど、その気持ちだけで充分だよ」


 そう口にしてから、彼は思い付いたように言った。


「そうだ、最後に私と一つゲームをしよう」

「ゲーム?」


 彼は嬉しそうに頷くと口を開いた。


「今日は僕がブレスレットを探し出したよね。

 なら、今度は君が僕を探すんだ。

 僕を無事に探し出せたら、君の勝ちってことで」

「私が、貴方を探す……?」

「そう。 あぁ、一つだけヒントをあげるよ。

 私はね、今日でこの地を引っ越すことになっている。

 だから、これから先城下にいることは無いと思って」

「!? そ、それではゲームにならないじゃない!

 だって、私達は街で会ったのに……」


 私が思わずそう口にすれば、彼はふっと笑って言った。


「大丈夫。 

 君なら私のことをすぐに探し出せる。

 そんな気がするんだ」

「……!」


 そう彼が口にした瞬間、サァッと風が私達の間を吹き抜ける。

 彼は「とにかく」と口を開いた。


「君がもし私に会いたいと思ってくれるのならば、私を探して。

 そして、無事に見つけ出せたらこう言うんだ。

 “ブレスレットをありがとう”と」

「……分かりました」


 彼は私が頷くのを見ると、満足げに笑みを浮かべると、不意にその彼の顔が近付く。


(わっ……)


 思わず目を閉じた私に対し、彼は耳元で囁くように言った。


「期待しているよ、“レイラ”嬢」

「!? 私の名前……っ」


 彼は再度悪戯っぽく笑うと、今度こそ雑踏の中へと消えて行ったのだった。





 その日以来、彼のことを忘れることは出来なかった。

 “君がもし私に会いたいと思ってくれるのならば、私を探して”

 出来ればもう一度、彼に会いたい。

 だけど、彼と出会った場所である城下には、彼はもういないと言った。

 そうなると、彼を探すために必要な証拠は不十分だ。


(思い出して。 彼はどんな容姿だったっけ?

 身長は? 髪や瞳の色は? 性格や一人称は……)


 記憶が鮮明な内に書き留めておくのが一番だ。

 全て気が付いた点など書き記してはみたものの、頭を抱えてしまった。


(そうよ、あの方は偽名を名乗りなさいと言ってくれた。

 ということは、あの“クリス”という名前も偽名である可能性は高い)


 それでどうやって見つけ出せというの……!

 思わず匙を投げてしまいそうになったが、ふと彼の言葉を思い出す。


『大丈夫。 

 君なら私のことをすぐに探し出せる。

 そんな気がするんだ』


(……そうだ)


 お礼も何もできないまま、彼とお別れをしたくない。

 せめて、もう一度会ってお礼がしたい。


(それに)


 私は、手に付けているブレスレットを見つめる。


(お姉様との繋がりだけではなく、あの人とも繋がりが出来た)


 多分偽名だと思われる“クリス”と名乗ったあの人のことを、もっと知りたい。

 話上手で、物知りで、面白くて。

 一緒にいるだけで本当に楽しかったあの人のことを。


(こんなにふわふわとした気持ちは、初めてかもしれない)


 今日のことを順に思い出しながら、私はそっと目を閉じた。






 とは言ってみたものの、探すとなれど探し方が分からずにいた。


(だって、まさか両親に頼むなんてことはできないし、第一城下に行ったことがバレてはいけないし……)


 お姉様に試しに口にしてみたが、あまり良い顔はされなかった。


(それはそうよね、城下で出会った名も知らないような方と……、それも身分が違うような方といたいだなんて、許されるはずがないのよね)


 はあ、とため息を吐いて天井を仰いだ。


(諦めた方が良いのかな。

 私にゲームを持ちかけてはいたけれど、どちらかというと私が望めば会っても良いよという感じなだけだったもの。

 彼は私に会いたいとは思っていないのではないかしら)


 そう思うとまた自然とため息が漏れ、ベッドでうずくまる。

 思い出すのは、最後の別れ際での彼の言葉だ。


『期待しているよ、“レイラ”嬢』


 彼は私の本当の名前を知っているのに、私は彼のことを何も知らないだなんて……。


「……あれ?」


 私の名前を知っているっておかしくない?

 私は一言も自分の本名を明かしていない。

 だけど、彼は知っていた。

 つまり。


「……彼も同じ貴族だということ!?」


 それなら辻褄が合う。

 幾ら物知りだとはいえ、貴族の、しかも令嬢の名前を一目見ただけで言い当てる人なんて、貴族にしか出来ないはず。


「同じ貴族階級だという線を考えれば、彼が私なら見つけ出せると言ったことにも辻褄が合うのでは……」


 何とかして導き出した答えに、私は嬉しくなって。

 まだ見つかってもいないのに、ガッツポーズを作ったのだった。





 それから数ヶ月後。

 私は、公爵家主催の誕生日パーティーに出席していた。

 今日訪れた理由は、私と同じ歳で仲良くして下さっている、このパーティーの主役である方のお祝いをするためでもあるけれど、いつもとは違い、もう一つの目的が私にはあった。


 私は挨拶を終えてから、すぐに会場内を見回した。

 そして、見つけた。

 人気の少ないバルコニーに、一人立っている方のことを。

 心臓が早鐘を打つ。

 誰かに話しかけられる前にと、少し早歩きでその方へ近付く。

 そして、その方が不意に私の方を振り返り、その視線が合わさった時、確信に変わった。


(あぁ、やっぱり)


 この方だ。

 私はすっと息を吸うと口を開いた。


「“ブレスレットをありがとう”」


 そう、私の目の前に立っている男性。

 その方こそが、この前城下で出会い、ゲームを持ち出してきたあの方なのだ。

 私は何も言わず、ただ笑みを浮かべるその方に向かって、ふーっと息を吐きながら口を開く。


「貴方は、酷い方ですね。

 身分も容姿も名前も、全て偽っていた上で私に探し出せなんて」


 その言葉でようやく、彼は口を開いた。


「はは、でも結果的に君は私を探し出せたじゃないか。

 やはり私の目に狂いはなかったよ、レイラ嬢」

「別れ際、私の名前を貴方が呼んだのと、その瞳の色で分かりました。

 貴方をお見かけするまで信じられませんでしたけど……、本当に貴方だったのですね。

 クラウス・アーセント第一王子殿下」


 私の声に、彼は満足げに笑うのだった。








 

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