これから
第1章最終話です!
「よし、準備は良い?」
「ピー!」
「せーのっ」
バッとバルコニーの扉を開け放つ。
すると、鳥さんは何処までも真っ青な翼をはためかせ、晴れ渡る青空へと飛び立って行ったのだった。
此処に残ることを決めてから数日後、看病をしていたあの青い鳥の怪我が無事に完治した。
元々自然の中で生きていた鳥さんだからと、今日でお別れすることに決めたのだ。
その姿を見届けてもらうため、私の隣には風に揺られて銀の髪を靡かせるイヴァンの姿があった。
「あ、見て、イヴァン。 あの鳥さん、まるでお礼を言っているみたいね!」
鳥さんは上に飛び立ったかと思えば、邸の周りを何度も旋回し、まるで別れを惜しむかのように飛んでいる。
その姿を見て感嘆の声を上げれば、イヴァンは「そうだな」と頷き言った。
「君が一生懸命世話をしたことを、あの鳥も分かっているのだろう」
「! イヴァンがそんなことを言うなんて」
「……馬鹿にしているのか?」
イヴァンの思いがけない言葉に思わずそう口にすれば、彼はムッとしたように口を尖らせる。
それを見て笑みを浮かべて答えた。
「馬鹿になんてしていないわ。 嬉しかったの」
イヴァンが私の頑張りを認めてくれたようで嬉しさが込み上げる。
素直に口にした私に対し、イヴァンはそっぽを向いた。
そんな姿を見て、私はあ、と声を上げた。
「そういえば、イヴァンに私、まだお礼を言っていなかった」
「何をだ」
「私が風邪を引いた時、看病してくれたってニーナから聞いたの。
ありがとう、イヴァン」
「……別に、感謝される覚えはない。
以前俺の看病もしてくれたんだ、当たり前のことをしたまでだ」
そう口にした割に、イヴァンの耳がほんの少し赤いことに気付く。
照れくさいんだ、と思いつい笑みを溢す。
「あ、それとこれも聞いた話なんだけど」
「?」
「私に……、お水を飲ませてくれたというのは、本当?」
「!?」
イヴァンの金の瞳がこれ以上ないほど大きく見開かれる。
そして次の瞬間、怒ったように口にした。
「それは誰から聞いた!?」
「じ、侍従達の間では有名な話、らしいわ」
その言葉を聞いたイヴァンは、チッと舌打ちをし、「やはり緘口令を敷いておけば良かったか」と恨みがましく口にした。
そう、ニーナから教えられたのは、イヴァンが魘されていて水を飲めなかった私に、口移しで水を飲ませたんだと教えてくれたのだ。
それを聞いた時、恥ずかしかったけれど、イヴァンが私のためにしてくれたことということが嬉しくて、お礼を言おうと思っていたんだ。
後、イヴァンが私にしてくれたことがもう一つあって。
「……イヴァン」
「今度は何だ」
ブツブツと文句を言っていた彼は、私の言葉にこちらを向いた。
そんな彼の顔を見つめ、口を開く。
「私、熱を出していた時、夢を見て魘されていたの。
……辛くて、悲しかった。
けれどね、誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえて。 その声が私を救ってくれた。
それは、イヴァンだったんだね」
「! ……」
イヴァンは黙ってしまった。
(これも、ニーナから聞いた話。
イヴァンが熱で苦しんでいた私に向かって、何度も名前を呼んでくれていたって)
なおも黙ったままのイヴァンに向かって、微笑みを浮かべて口にする。
「ありがとう、イヴァン」
「……それは、お互い様だ」
目を合わすことなくそう口にするイヴァンに対し、思わず笑ってしまう。
「笑うな」
「だって」
クスクスと笑みを溢す私の頭を、イヴァンはコツンと軽く小突く。
(あぁ、こんな時間がずっと続けば良いのに)
この一ヶ月、本当に色々なことがあった。
本当なら終わるはずだった此処での生活が、また新たな形で始まった。
(私はもっと、イヴァンのことが知りたい)
そのために、此処に残ったのだ。
「……イヴァン」
遠い空を見つめていたイヴァンの金の瞳がこちらを向く。
その瞳をじっと見つめ、いま自分ができる1番の笑みを浮かべて言った。
「これからも宜しくね」
「! ……こちらこそ」
そう返してくれたイヴァンにもう一度笑みを浮かべると、私も同じように、澄み渡る遠くの空に思いを馳せたのだった。
第1章、いかがでしたでしょうか?
次話より、イヴァンとレイラ、それぞれの視点を変えたところから見る第1章の振り返りを更新させて頂きます。
イヴァン視点では、リディアと関わるうちに変化する心の機微を、レイラ視点では、クラウスとの出会いも含めた裏話を描いているので、是非楽しんでお読み頂けたら嬉しいです!
引き続き宜しくお願い致します。




