35.アルファゼロワン
北アメイジア大陸、某日某所。
「ゼロ。ゼロ。ゼロ、か。それって、空とよく似てる。なんにもないのを現わすために、器としてただ創られた。無きものを有りとみなしてしまう、つくづく人の衝動ね」
血に染まったかに赤い長髪をなびかせて、彼女は、荒野の道なき道行き言った。砂を蹴立てて軽快に、その必要がなくたって、そうして歩くのが好きだった。
剣を帯びるから、剣士と知れる。前へ、胸を張り進む姿で、人々に何を思わせるだろう。
しるしは、年頃の娘の線だ。艶にかがやく小麦色の肌。飲み込まれそうな榛色の瞳。しずかな彼女を切り抜き見たなら――胸当てに、剣さえ帯びないでいてくれたなら、見目麗しい乙女と評せた。
生きた彼女を前にしては、誰が同じく思えるものか。一挙一動、勇ましすぎだ。男勝りとはまた異なって、美しい、とひたすら感じ入る。美貌ではなく、有様に。
彼女は、彼女である以上、星になんぴとも、見紛う事なき"戦士"であった。
「けれどその形は、つぶらでありよすが。"偶然の一致"かしら?いいじゃない、気に入ったわ。うまいこと肖ってて」
「とってもおかしなアルシヤです。もともとおかしなアルシヤですが」
血染めの赤髪を鼻先ではらって、つづく少女はうっとうしがった。うるわしさだけが、しるしで通ずる、赤とは何もを対する少女だ。
幼い顔つき、白い玉肌、おそろしいほどに深い青の瞳。ちょこん、とふさふさ白い獣耳は、しるしとして、どこかいびつとされた。短くもゆたかで、やわらかな髪が、あますところなく、碧空色に染まるせいだった。
荒野にぽつんと彼女がひとり、惑っているようみえたなら、あなたは、手を差し伸べずにいられない。日照りにかわいた岩砂に、たとえ己の水が尽きかけだとして、彼女が渇くとまなこをむければ、人はみずからすべてを差し出す。
旅には不向きな袖裾を着て、いかにもひ弱で青い彼女が、どうして勇ましい赤にからむのか?一目で察せるわけがない。
「ただちにしゅうりが必要ですね。きっとあたまが虫食いです。ぬすんだ林檎を食べました?」
「あー私は全く取り合わない。取り合わないったら、取り合わない。おバカなシエラは無視が一番!」
「ぜんぜん、有言不実行です。煽り耐性それこそゼロです。おバカなのはアルシヤです」
「シエラよ」「アルシヤです」「シエラ」「アルシヤ」「シーエーラー」「アールーシャ」
「まー、まー!」
割り込んだのは、ちいさな老爺だ。青の少女と並んでいる。
「ともかく、一党の長が気に入ってくれた。そんなら良しっちゅーことで!」
ほほほ、といかにも人がよい。彼の構成要素たる、あらゆる年季の入り用をよそ、溌溂とした生気があった。
しるしは、おごそかな白である。丸縁のとんがり帽子、日照りを射返すぶ厚い長衣。皺深いおもざしに、顎鬚さえも真白にととのう。身よりも長けた長杖だけだ。荒土をつくのに、黒ずんでいた。
さて、鉤鼻にかざる単眼鏡は、実用に能う装いだろうか?ちょい、と跳ね上げるその老爺は、北アメイジアにかつて栄えた小人の亜種――ドワーフの末裔であった。
「ゴドルフも手間ね、なにかにつけて呼びつけられて……通信符号にせよ、電報ひとつでたりたでしょうに」
「戸が立つ口は有限じゃからの」
「直接私を呼べって話」
「さけられてます。のけものです」
「なによ、誰から?中央から?」
「そうです。無理もありません、アブナイ女選手権優勝のアルシヤですから。あ。よかったですね、イチバンですよ」
「ふーん。イチバン、そうでしょうね?そうでしょうとも。誉め言葉として受け取っとくわ、アルファ、ゼロ、スリー?」
「ふぬぬぬ。やっぱり調子こいてます。とても許されざる振る舞いです。こうなったら無線機担当はおバカ力のアルシヤで決まりです」
「やーよ私は!こちとらなにかと普段から背負ってんの!ね、マーシャル、あなたに頼んだわ」
「………………」
「無言です。これはマーシャルの無言による拒絶です」
「舌がまわらないってだけでしょ!どーせ通じてるんだから、うんとかすんとか!身振り手振りなり!」
「いけませんアルシヤ、そうして選択を強いるのは、選べよハラスメントというやつです。セレハラです」
一行の最後尾に、無言をとおす偉丈夫がいた。マーシャル、と呼ばれる彼は、どうやら満開の獣人らしい。
どうやららしい――と表さざるを得ない。素肌をいっさいさらさずに、只人ならざる頭骨などは、灰地の布で巻きに巻くせいだ。強いて推すなら、馬頭であろうか。聳える体躯は、巨人種としても特等がつく。
剣を帯びるから、剣士と――はたして知れようか?これまた重ねる推測だ。背に、ありありとはぶら下げている。剣と呼ぶにはあまりに大きい、取ってつけた柄の鉄板である。更なるなにかをまだ背負うなら、置き場に熟慮が必要だろう。
睥睨し、のぞかす眼はまた、するどさだ。灰の巨漢がまばたくと、瞼はひとみを横切った。
「メンド……」喋れば、からころ喉が鳴った。
「そりゃあマーシャル、どっちのこっちゃ?背負うのか、口利きか?」
「リョウホ……」
「あのね、こっちきて何年目?そんなんだから、どれだけ経ってもモノにならないの!」
ばっしぃん!と、赤髪に叩いて鳴らされ、灰の巨漢はどうじなかった。そうそういない逸材だ。
「あっ、いけませんアルシヤ!こんどはパワハラ、前時代的です!すぐさま上司に報告です」
「そうねぇ、具合よろしくも無線機があればできたわね!あーあ、我が一党にも荷物持ちが要るのかしら?バートリィがまだいればなぁ」
「サイテーですアルシヤ、死んだ人間を荷物持ち扱いです。だいいち巨きいからってだけで、なんでもかんでも負わすのはヘンケンです」
「よく言う!もりだくさんに積ませてたのは誰だったっけ?今度の潜行だって、あんたの分はどうすんの?私は絶対持ったげないから」
「えっ!それは困ります!お願いですアルシヤ、めいっぱいそれらしい祝福をあげますから」
「ぜったい嫌ー!瞬歩の足しにもなんないのよ、あんたのよこすバフなんて……」
「なぬ。たいへん心外です!私がポンコツみたくきこえます。おバカなバフをちゅうちゅうしてる、アルシヤだからきかないだけです」
「ていうか、何!それらしいって!ちっとは誠意をみせなさい」
「はぁ~、これだから……大いなる力は、大いなる精神にのみ紐づくのですよ?私の役目はその見極めなのです。力には責任が伴うんです。あーあ、わかりますかアルシヤに」
「出た出た、力に責任ね。それ、あんたの口にのぼる千年前から、御師様が言ってたことだから!祝福の御言なんてパクりよ、二番煎じって言うの」
「むっか~!流石にこの星を冒涜してます。冒涜ったら冒涜です!アルシヤの御師様マウントひじょーに許せません。どうせ実際いやしません、踏んでも踏めない影法師です」
「猫耳のくせにこの鳥頭!マーシャル来たとき会ったでしょう」
「千年前から生き連ねてたら、人間じゃなくて化け物なのです」
「その口、クイーンにきかせてやりたいわ」
「女王様は特別です!とうとい理外のお方です。はっ、ようやくさとりました!あの東の賢者とかいうなりあがり、悪心の人真似というやつです。号外、号外!アルファゼロワン、"果て"と通ずる!」
「どれだけアンチなの!?飛躍しすぎっ」
おもてでは、たぶんに得られがたい時間だった。赤と青とがかしましくいられて、目的地までの束の間である。白い老爺が咳払いをした。
「ほれ、ちょちょいで着くぞー」
「えっ、もう?ホント!五十歩はやく教えてよ!」
「ぷぷぷ、お間抜けアルシヤです。オフだからって抜けすぎです。私はとっくに見えてましたー」
「早く言いなさいおバカ!」「おバカじゃありませんー」
「ま、ま!よっぽどよかろ、境のむこうじゃ見えやせん」
道なき荒野をやってきて、たどり着くのもまた荒野。際限のない見晴らしに、一行はふと立ち止まる。
「じゃ。いちお、わしからの」
長杖の先で十字をきると、老爺は景色にぬぷりと溶けた。鏡に沈むようだった。
個として、一行は認識された。看破は最初のひとりだけでいい。赤いの青いの、灰色の、つづいて荒野の虚空に消えた。
乾いた土くれ、砂ぼこり。境の向こうもまた荒野である。違うのはむこう五百メル、切り立つ岩肌、とうとつな緑、荒野に果てが現れた。
ぽかりと洞がなっている。こんもりとした樹々の下の、岩肌が妙に穿たれるのだ。縦横五十はくだらない、馬鹿げて巨大な暗黒は、逆光にましてうずくまった。
荒地と芝とがいりまじる、まばらな境を一行はいく。突き進むのに、なにも語らない。赤髪の剣士は足音を消していた。碧髪の少女は視線を落としていた。姉妹さながらの二色はなかった。白い老爺と灰の巨漢が付き従った。
来客を、知らされなかった人々がいる。ふたりの歩哨がそうだった。目の当たりにする四色から、この星の何を守れというのか。踵を鳴らして出迎えた。ひかえる陣地へ、疑懼もなく通した。
流星旗が翻っている。あたり埋めつくす天幕だ。先頭をきって赤髪は、額に五指をやめられない。行く先行く先あふれる兵士が、最敬礼にかかるせいだ。小銃歩兵なら筒を抱き、帯剣歩兵なら騎士を倣う。ふつうなら、撫で斬りに応じるべきでなかった。
「ごくろうさん!なおってよいよ~」
白い老爺が笑いかけると、欠かせない用のある者たちだけが、四色のゆくえを尻目に捌けた。そのほかは直立不動を、いつまで経ってもやめなかった。
洞にはいって陽がかげり、一行はやっと答礼を休める。化学光照明のほのかな緑が、岩くれたふちを彩っていた。
まっすぐ行って、やがて迎えられる。また最敬礼だ。ふたり、見張りの当直たちであった。目の当たりにする四色ばかりの、異常さにただちに気がつけたらしい。すぐさま顔を見合わせて、
「統合統制指揮官を呼んでまいりますっ!ただいま!」
声を裏返した片方が駆け足で消えた。出遅れた方は答礼の加減を見極めてから、「やすめ」に気まずくはりついた。
森閑とするこの最奥を、赤髪の一行はいかにも吟味する。待ち受けたものを、こう呼ぼう――高度軍用規格の防爆壁、と。
入口であり出口にあたった。くぐった洞とは、この大きさだ。かたくかみあう繋ぎ目は、守るためにあり、封じるためにある。
ぐるりと首をめぐらすだけで、赤髪に用は足りてしまった――羽根をのばしたいんだけど?――老爺にちろりと合図する。
「君も休憩しておいで」
察する力に富まずとも、ほほほ、と笑まれる意味は伝わろう。
「はっ。失礼致します!」
音の響かない洞だった。光のもとへと帰る兵士を、四人はしばらく見送った。
「みんなめちゃくちゃビビってます」青い少女が調子を戻した。「節操知らずのアルシヤです。バカでか闘気をまき散らかして」
「いーじゃない!ここなら覗き魔の心配もないんだし」赤い剣士も調子を戻した。「だいたい、いちいち窮屈なのよ、肩肘はるか、ひそめるか」
肩書きをもしひけらかすなら、よりそれらしくが求められた。赤青ふたりの宿命だった。
「もぐった方が活き活きしてます。モグラ人間のアルシヤです。失敬、しるしに配慮をかきました。言い方変えます、地底人です」
「はいはい、妥当性に満ちあふれたお言葉選びをどーも。実際だーれも気がつかないわ、明日の私が影だって。でもね、いまのところはお日様が好き。だからとーぜん思っちゃいるわけ、久方ぶりのお休みにまで、地底観光ってどんなご了見よ?」
「あっ、そうだ!」
白い老爺が手をうった。
「新人の話って、わし、もうした?休みあがりにくるんじゃけど」
「え、新人?何よだしぬけに」「そうです。フリが急すぎます。アルシヤがこき使うカスケイドもびっくりの急旋回です」
「おーん、ほんじゃ興味ないの」
ないとは誰も言ってない。赤青ふたりの息があった。
「どんなのよ?私の知る人?」
「ぴっかぴかの新人よ。なんと、最年少"魔導"到達を目される土系統魔術師!」
「いけません、アルシヤ。ゴドルフはおじいちゃんなのでボケてます。目して至れる"魔導"はないです。とるとてとれない皮算用です」
「そうね、それに魔術師って?バートリィの後釜に?ただでさえバランス悪いのに」
「しかも最年少ならチビガキです。巨人にしたってチビがつきます」
「ほうだ、ちっこい形してた。ひょっと小人かの」
「チビの極みです、最悪です」
「スペックを聞いちゃ大したもんよ?攻勢規格じゃ最上も上。戦車砲相当の岩弾を、秒間十発から繰り出せるって」
「数字は数字、術師は術師!"魔導"にしたって実績なしの、ぽっと出がついてこれるわけ。ゴドルフに勝てとはいわないけど、私とどっこいならみてなさい、人事のおしりを蹴とばしたげる」
「アルシヤは調子こきどおしです。二物与えた星を恨みます。万能不到のモンゴメルも、草葉の陰でわんわん泣いてます」
「あんたからすりゃおもちゃでしょうが、私の攻勢術式なんて」
ため息をついて赤髪は、光のある方へ目をやった。
「……にしても遅いわ、ここのお頭」
「そうじゃのー?腹でもくだしたんじゃろか」
休みの都合を返上したうえ、荒野の砂に吹きさらされた。特別手当はとうぜんとしても、一秒を無為に過ごせない。
「も、入っちゃう?」
「じゃの!どうせ目新しいインフォもなし、時は金なりれっつらごー!」
「オケー。マーシャル?そっち任せたわ」
赤髪の剣士は言って指をさし、静かに剣を引き抜いた。扉など、吹き飛ばす方が手早いが、不安定化の危険をともなう。外殻の損傷は最小限に抑えるべきだ。
「いい?」
「オケ……」
「いくよ、せーのっ」
隔壁の錠は上から下まで、剣の抜きざま破壊したばかり。阻むのは、見た目通りの重量だけで、灰の巨漢が四肢でかかるのに、娘は片手で軽かった。左右にみるみる壁は開いた。
キィィンウン、ゴウン、ゴウン、ゴウン……。
洞の天井から土くれがふる。環境と半端に同化するのだ。崩落を懸念して開放幅は、十メルほどでよしとした。青い少女が、手のひらで耳栓するのをやめた。くしゃりと獣耳のほうだ。
「くぐり戸の方をさっと抜けばよいのに、とかしこい私は思いましたが。いいかがでしょう、脳みそ筋肉のアルシヤさん」
「は?お望みとあらばしてあげたわよ!でもそれ、私らがホントにすべき?こそこそ魔石取りみたいな真似。行くなら真っ向きらなくちゃ、でしょ」
「くやしい、なかなか同感です。どのみちひらけた道ですし、ご苦労様といってあげます。私の労力ゼロでした」
のぞく闇で待つ誘導灯は、ゆるやかに下っていた。うす橙色のさだかさは、発電能力のたしかさを語る。
「うん、情報通り……ちょっと暗いかしら?」気遣いのそぶりをみせずに赤髪は言った。「明かりをちょうだい」闘気が利くなら、昼も夜もない本来だ。
「ほいきた」
老爺が指をはじいた先から、ぽっと火球が浮遊する。四人にそれぞれ追従するだけ、いっこうに落ちようとはしない。
ためらいもなく赤髪は行った。なにが待とうと構わない。実際、彼女には散歩のうちだ。
「荷物持ちはさておき――」だから雑談の続きであった。「壁役の入り用ったらホントよね」
「統括騎士から誰かどうじゃ。ウチのと交換出向でー」
「ロクな盾持ちが当代にいる?まったくないとは言わないけどさ」
「匂わせです。自分を振った男の話をアルシヤがまた匂わせてます」
「勝手に深読みしてなさい。大体アレは妻帯よ」
「そうですね。とてもおめでたいです。ちかごろ、お子さんも生まれたそうで」
「はぇ?なんであんたがそんなこと!」
「私の異能を舐めすぎです。おしりのほくろも隠せません」
「ただの遠見の魔眼でしょうが!もっと星の巡りにでも熱を入れたら?くだらない覗きに使ってないで」
「うっ。どんどん詰まりの研究課題を……ふ、ふんっ!アルシヤになにがわかりますか。魔術師は真価を隠すもの、敵味方問わずさらさない、これは先史につらなる伝統なのです。アルファゼロスリーのお仕事なんて、十分の十分の一でじゅうぶんですし」
「はいはい、能ある鷹、爪隠し過ぎて、ただの鳩、まさにあんたのことね~」
「あーかわいそうなアルシヤ。私が鳩なばっかりにアルシヤがこれでもかって困ってるときに、助けてあげられない気がしますごめんなさいアルシヤ私は鳩なのでクルッポー」
「ほんなら、ロックバルとかどう?」
「ああ、前衛の話?」
「うん、暇してるって聞いたけど」
「え~、必殺剣士でしょ?ジムで目が肥えちゃってるからなぁ。私あんまり知らないんだけど、日に十発くらいはいけるんでしょうね」
「いいとこ五振りじゃな」
「"五剣"が聞いてあきれるわ」
「きびしいのう」
「そうです。先代で斬っちゃ反則です。必殺剣士で継戦なんて、戦車で大陸横断するくらいおバカです。ザガスティンはどうですかゴドルフ。からだが大きいし守護剣士です。前衛向きです」「現金な子!やっぱり荷物持ち」
「死んだよ、奴さん。ホント最近ね」
「そうですか、お気の毒様です」
彼女らがとくに疎いのもあるが、伏せられている死というのがある。このところ重なっていた。まだ重なる。
「ドールラン……!は、ダメじゃったか。外保に移ったんじゃった」
「ああ、赤髭の。私、あの人けっこう好きよ。おばさんと違ってやかましくないし……でも異動って、もう引退?」
「からだが大きいのに残念です」「そればっかり」
「地元孝行ちゅうやつかのー。もう二年は前じゃない?ほれ、この一連の"先史"、第一報がドールランじゃった」
「そうなの!道理で見ないわけ……ね、ウチが選考会負けたのっていつ?おととし?」
「おととしですね。しかも二部門とも敗北です。果てしなくあり得ない屈辱です」
「それよ、おじさんが出ればよかったのに。外保だったらひとっ飛びでさ」
「小耳にはさんだわい、戦災孤児の慈善訪問を優先したそうな」
「あは、そういや年末だったっけ?きっとギビングデイの衣装が似合うわ」
「ありゃ生涯現役の口じゃの。お仲間お仲間」
赤と白とのかたわらで、青い少女がぶつぶつ続けていた。
「……忌々しいです選考会」
「気にするわね」
「もちろんです。私らが出れば負けっこなしです。無理も承知ではがゆいです」
「お役目柄どうしてもねぇ……ま、潮目もじきに変わるわ。今日だって気を取りなおしてちょうだい。あんたの盾は絶品、嘘じゃない」
闇の坂道をくだりきって、一行は立ち止まった。阻まれるせいだ。それは軍用規格の防爆壁で、二枚目だった。
この先、前例はあてにならない。国内外に突如と大量出現し、女王の名のもとすでに封鎖された計四十七の"先史の迷宮"は、似通っていて、どれも内部構造を異にしている。
こここそ、未踏で最後のひとつ。
魔力をふくむ、あらゆる波の非破壊検査が、最大規模と推定した。深部では、何が蠢くのか知れない。だから苦もなくすべてを終えられる、最高の一党が招集された。頭の名前を、アルシヤ・レイ――剣を握るから、剣士と知れる。
「私もやったろうじゃないの、アルファゼロワンとして初仕事!」
血に染まったかに赤い長髪をなびかせて彼女は、前へ。




