30.あたたかな手紙
卵はみずから名乗らない。必要こそが名付け親なのだ。"麓の町"にせよ、もとは名もなき街道町。目印たる"双子の山"を後背する、だから麓と授かった。ありふれていて、悪くはない。由来、発展、当代の機能と、どれも明瞭でいてくれる、壮年期にして典型例だ。
"大陸道"を人は行く。往来は富の原石である。はじめにひとりが目論むと、あっという間に列がなる。
商機だ。
統べ手無き土地とはつまり、国がない。税がない。組合がない。自由で、しかし安全がない。理不尽をはねのける盾がない。
迫る災害に人獣に、せめてどうした場所を好もうか。
防壁を探せ、自然を使え。
目星をつけて彼らは集まる。利益と危険を秤にかけて、とぐろに尾を食う蛇の群れだ。旅路の誰かはこれを見立てる、腰掛けとしよう。留まってみよう。毒牙をむかない座り心地なら、ついでに守ってやってもいい。おおきな椅子なら贅沢だ。やがて所帯も立ってくれるなら、うずまいた欲は町として栄える。
忘れるなかれ、典型とはつまり好例だ。孵らなかった町はいくつもある。どれも名前を残さない。統べ手無き土地に、真の盾はない。
麓の町に具体を見よう。防壁の七割を山が担った。南の裾野に木柵をこさえて、安全地帯のできあがり。今や町の「売り」そのものだ。ほどほどに安心の宿場町である。
昼方に大門をくぐった"商隊"は、休息を高く買うつもりだった。"贈り物"の街道町から、道を西進すること数日、夜の数だけ魔物の襲撃を退けている。"さなか"の頃とは桁違いだ。乗る人々の質がたちだから、脅威が脅威に足り得ぬとはいえ、夜襲のたびに総出ときている。夜番もなにもあったものでなく、これを町にて整えたかった。
一晩だけを越すつもりでいた。それがよもや二日、いや三日も跨ぐ滞在になるとは、ゼンはすくなくとも予期していない。
『しまった、満月ったら明日か!』
ハウプトマンだ。どこかの部屋で誰かに言った――相手はたぶん、イトーかな?――小耳に挟む少年は、隊が泊まった宿の廊下にいる。丸太壁越しに、盗み聞くつもりはなくたって、いささか耳がききすぎた。
――満月……そうだ!満月がくる。
ひらめいて、ゼンは袖を嗅いだ。まだ香辛料の匂いがする。町の探検の腹積もりをほかって、今日の自室へ踵を返した。
三人部屋を、ダルタニエンは一度見に来たきりだ。厩舎をのぞけば会えるだろう。サルヴェトレスなら、寝台でぐうたらしている。宿に仕事をとられて暇らしい。
「忘れもンかぁ?」
「はい」
まさに忘れものだ。ゼンは思って頭をつっこむ。馴染みのずだ袋であった。
「それこそ新品要ったなオイ、薄汚ねェったらねーぜ」
「もっとつかえます!」
「ビンボーショーけ、ガハハ」
汚れたようにみえるだけ、泥はしっかり落ちているのだ――かさがつめこめて便利だし……――とうぶん、買い替えの予定はない。けれど押し込めるからこそ忘れてしまう。狙ったものならすぐ取り出せるのに、忘れかけでは手こずった。がさごそと、いちばん奥の方をだいぶさらって、お目当てのものは見つかった。
「ありました」
手に取っている、茶色の小瓶だ。色がつくだけ、ふつうの塩と変わらない。と、"老商人"は言っていた。
「んだァ?隊んじゃねぇな」
「はい。これ、《タンポ》というので、もらいました」
ゼンは小瓶を手渡して――サルヴァなら、きっとくわしいよね――なんとか事情を説明する。旅出て二度目の満月が近い。商人が村にやってくる。その塩の価値は、いかほどだろう?
「おー!こりゃ刻印付きじゃねぇの」
「こくいんつき、ですか」
「底のしるしさ。ほれ、さっき買い付けたのとおんなじでよ」
かえしのついた矢じりの模様が、ひとつの星型をささえている。大陸道に出てからとくに、ちらちら見かけるしるしであった。
「まちの薬局、というとこにも、ありました」
「こりゃな、王国製のしるしさ。簡略印らしいがよ、どのみち連中にしかこれは使えねぇ」
「王国せい、なら高いです?」
「大方な。開けちまっていーか?」
「はい」
「ん、新品じゃねぇの……よっと」
ふたが固いらしい。開くまでよかった、その後だ。サルヴァトレスが内蓋までを剥くとき、勢いあまって、粉がふわっと。鼻はムズっと。
「くしゅんっ」「ぶうぇっくしょい!」
それぞれくしゃみをし散らかす。
「ぇ~い、がつんときたな!上モンのしるしだこりゃ。どれ原産は……"香ぐわしき国"!手間がかかッねぇ」
「じょうもの。よいものですか」
とにかく価値が気になった。サルヴァトレスは応えてくれるが、得意な話で早口である。訛ってしまうと難しい。
「そらな、ただの塩たァちがわぁ!この色よォ、胡椒ってぇな風味があっから、砕いちまうと遠く運べねぇ」このあたりまでゼンは頑張った、それから。「製法がどうの違って、小瓶に細工がどうのあって」ちょっとよくわからない。
「じきによ、雨季も来やがンだろ?するってぇとなおよくねぇ!」
これにはゼンもそうだと思った。うんうん首を縦に振る。とにかくもうすぐ雨季がくる。月が満ちてまた欠けたなら、商人が村にやってくる。
「――あン?わりぃわり、ちと込み入ったな」
「それ、返さないと、いけません?」
「いやぁー?頂いちまっていーんじゃねぇの」
「もう、商人、会えません……」
「おー」
みずから言って、ゼンは悲しくなってきた。御許を出られてよかったとばかり、失うものには気がつかずにいた。
――もう、ほんとに会えないんだ……。
夏一巡につき六度ばかり、会えるのをとても楽しみにしていて、老商人とはもう会えない。
もしも会えるとしたってだ、何年先になるのだろう。星の果てまで行って、帰って。実際にするか、できるかはまた別としても。
――そういえば、次は何か品物を持ってきてくれるって言ってたのに。
火の神の村にはもう戻れない。商隊の馬車は、止まりこそして、戻らない。約束を、やぶることにはならないか。
「……商人、これで損しませんか?誰かに、あずけ、届けてもらいます?」
「やーめとけやめとけ!タンポつったんだろ、そのジイさん。もらっとけ!損がネぇようにできてんだ。センセーにも聞きゃわから。そんにな大概、何かしゃ物を送ろーなんてぇなぁ高くつくだけ、届かねぇなザラだかんな!お前の親父さんの仕送りありゃ特別だ!」
「……そうですか」ゼン・イージスとはいえ、少年であった。こんなとき、眉をひそめるしか手立てがない。
「んまぁーでもよ、便りぐれェなら構わねぇか?」
「たより……?」
「文字ってな、読みてぇと思う人間にしか価値がねーからな!便りってな、手紙だよ、手紙」
「ああー!」
これまたそうだと、ゼンは思った。"手紙"ならよく覚えていた。価値があっても関心はべつだし、他人の気持ちを横取りしたって、どうにもならない――こういう時に書けばいいんだ……!――何をすべきか、ゼンはもう決めている。やると決めたらやり遂げる。
「ほいでよ、どうするんでぇこいつァ」
小瓶のあたまをゆらゆらつまんで、サルヴァトレスはあやしく笑った。
「お前の手に余ンなら、俺様がうまぁく料理してやら」
「おねがいします!」きっと言う通りにしてくれるのだ。
「へっ、期待しとけよ……んおっ?」
塩のことならもう気にかけない。耳も傾け半分に、部屋を飛び出した少年である。「どォこ行くんだ!」と、背に投げかけられるから。
「手紙書きます!」
もー字が書けんのかぁ――?すでに遠かった。こう答えた。
「これから、覚えます!」
行きつく部屋には、もちろんイトーだ。事情を知らせる。手伝ってもらう。そなえつけの小机にかじりついた。サルヴァトレスもあとからやってきて、様子をじぃっと眺めていた。
筆記が上達しないのは、機会が乏しいからだった――もっと練習しなくっちゃ……――かみしめながらも、ゼンは集中する。上質な紙はこれで最後だ。
「読めますか……?」
「うん、まずまず読めるでしょう」
手帳のほんのすみっこに、おこしてもらった思いのたけを、みずからの手で書き写した。硬書体の一発書きだ。ちょっぴり綴りを間違えているが、必要なだけ伝わるはず。宛て先には、すこし悩んで――商人ならば掲示板を見る。"さなかの町"の掲示板に貼りだしてもらえばいい。けれど、どうやって送るのだろう?頼れる大人が暇でよかった。
「任しとけ!」
夕暮れをひかえた快晴に、三人は繰り出した。大門をくぐって、大陸道だ。休息が売りの町とはいえど、誰しもかれしも門はくぐらない。小休憩のさなかの馬車が、道沿いにずらっと並んでいる。
「下がって見てな坊主。ちぃと遠目ンなら要領が良い」
しゃっと手紙をとりあげて、サルヴァトレスはずんずん行った。とっくに目星をつけたらしい。馬車のひとつを目掛けて行った。
大陸道をはさんで向かいに、ゼンはイトーとその様をみた。
サルヴァトレスが声をかけたのは、これまた老商人である。白髭をたくわえて、布巻きの頭は茸のようだ。やがて察せる、あたり一隊の長らしい。立派な荷馬車は"商隊"に負けず劣らずで、護衛の馬車まで別にいる。あとでイトーが、「あれこそ商隊ですよ」と笑った。
ゼンは耳をとんがらせている。サルヴァトレスはどうするのだろう?聞くにしたがい、風向きはそれなり。行き交う蹄音、車輪の音、大門通りの呼び込みで、くまなく、とまではいかないが。
なぁ、あんた向こうから来たんだろ?俺も同郷さ。"さなかの国"は通るよな。《オル・トブ・ツェルは其方を見ている》。
いかにもあやしい輩であった。護衛には剣柄を握らせるもので、ゼンもさすがに心配になる。
「……平気かな?」
「あれでいて人を見る目があります」イトーは待てという。
たしかに。茸頭の老商人はいかめしい面構えでいても、忠実そうな部下たちを手首ではらった。それから、いかな交渉がなされたか、知らない言葉でわからない。ともかく老商人は手紙を手にとって、やはり異国の言葉で言った。さながら、唸り声である。
「《して、貴方の仰る対価とは?》」
「あの子どもが喜ぶ」
自分の話だ。ゼンは思って顔をあげると、ばちり目が合った。サルヴァトレスの肩越しにのぞく皺な顔つきは、異国の陽に焼かれた貫禄である。
「《……大いに結構》」
「《手間賃を別にご所望か?》」
銀色硬貨が、サルヴァトレスの指先できらり。
「私はなにも求めない」
「そうかい!」
渡す気なんてぇ端ッからねぇぜ!空耳させてくれる素早さで、硬貨は手中にしまわれた。
老商人は気にとめていない。一声唸ると、護衛らが機敏に持ち場へ走った。サルヴァトレスも、道を渡って戻りぎわだ。
ゼンはようやくハッとする。早速発ってしまうらしい。手紙を託せたようなのに、自分はなんにもしていない。どうしよう。とにかく道へ飛び出した。東へむかう背中に叫んだ。
「ありがとうー!ありがとございます!」
何度言ったってたりない言葉だ。ありったけゼンがとなえると、異国の老商人は、手だけを挙げて応じてくれた。手紙は届くとみていいだろうか。
「たいしたものですねぇ」
「なこたねぇ、よしみをダシにさ」
帰途に三人そろってからだ。交渉術をイトーが褒めると、サルヴァトレスは鼻でわらった。
「商人、とどけてくれますか」
「おん、よっぽどな」
「こわい顔してました……」
「心配ねぇ。請け負ったンならやりとげる、ヘンクツな野郎ほどそういうもンだろ?……おっと!旦那の悪口じゃあねぇぜ」
なるほど顔がいかめしくたって、怒っていない人はいる。ゼンはイトーとくすくす笑った。
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風で暦を読む村だから、マクスは月をかぞえさせた。寄る年波が強いる忘却に、たとえ数字を伝え逃しても、村で一番のお得意は、訪問の日をたがえなかった。
商人としてマクスは死ぬだろう。十五回目の夏を前にして、決断が彼をかたちづくった。
「もっとも"賢き者"は、エランだと言って」
祭りの前夜、長老の耳に囁いたのは、双子の兄の名前だった。シローネの家に生まれたふたりは、まるで似つかぬ双子であると、御許では知れ渡っていた。
横柄で権威を笠に着たがる兄。自由と調和を尊ぶ弟。兄より優れた弟が、本心でなにを抱くのか、長老は見抜いていたものだから、マクスの頼みに頷いた。
マクスは、生まれついての弟だった。兄の性分を知り尽くす、呪いのような肩書きだ。一番を望む訳ではなかった。
"賢き者"の選定のとき、マクスの名前は二番に呼ばれた。兄のエランは満足げだった。見習いを経て村長になって、当代も座を退かない。ときの長老は火に帰ったから、真実を知るのはマクスだけだ。
マクスは村を出たかった。外へ。二番であれば、その肩書きは選べた。
商人である。
物覚えのいい若造だから、先代にはたいへん気に入られた。"一条"をつなぐ担い手になって順当だった。
よどんだ村で死にたくなかった。
変われないでいる人々が苦痛だ。もっとも、刺激と過激さとはちがう。"さなか"近域の行商は、ありふれていて、悪くはない。目さえ凝らせば、あたらしさがある。若きマクスは肩書きに馴染んだ。
貨幣を嫌う故郷に、儲けなどない。几帳面なマクスだからだ。ひとえに役目の訪問を、数十の夏が巡る間に、隔月初とさだめて欠かさなかった。
ただ一度、昨夏にかぎっての話である。命知らずの野盗どもに、荷馬車をやられて、動けず欠かした。全ては領主がおぎなった。
老いし身にそなえ、食っていけるだけ蓄えていた。村は後継をよこさない。義務と惰性で"一条"を通った。つまらない。つまらなかった。
御許へ赴く理由を見つけて、まだいくつも夏を数えない。
小さな取引相手であった。
彼は対価を欠かさない。さしだす小さな諸手には、子どものがらくたがのったことはない。ときに意外性すら伴って、大人の仕事も凌駕する。
価値がある。面白さがある。
老人が少年の世界を知り尽くせるとはかぎらないのだ。
じとりとした曇りの"一条"の途に、マクスはいる。浅い寝のうちに空は晴れた。
星をながめて"聖域"を発つ。井戸がしるしの広場で待った。一番早く彼は来る。さながら夜明けの象徴だ。もはや日時を知らせずとも、法則を解くかしこさがあった。
――彼は決まって一番だ。きっと、なにをやらせても一番になれる。そういう星に生まれたのだな。
それがどうした、現れない。陽だけがむなしく輝いて、二番目のお得意が、一番になった。
ふたり一緒は珍しい。サリーナとシエンテは神子の姉役だ。
楽しみの欠けた今朝を、マクスはひどく残念に思う。ともすればひやりとした――彼の身にもしや何か――最悪がよぎる。春先の彼は痩せていた。弱ったところに病か、怪我か、遭ったのでは。
そう、マクスは忘れている。仕入れに品目、価格に経路、ひとつたりとも忘れはしないが。ときどき、出来事が思い出せない。
姉役達の応対もうわの空で、たまらず訊ねてみようと思った。
「もし、穢れを憚るかい」
"穢れ"は御許で好かれない。口にするのも、村人はためらう。構うか。このふたりでだめなら、これきりだ。
小綺麗な娘たちだった。きょとんと顔を見合わせる。そっとあたりを振り向いてから「いいえ……」と、たしかにささやいた。であれば、はて、すこしは気にかけていてくれるだろうか。
「何か知らないか、イージス家の坊やさ。今朝にかぎって、顔をみせないんだ……」
「あ!マクスさん、ご存知でなかったのですね」「そういえばちょうど、前回お越しくださった新月の晩でした」
サリーナとシエンテは、かつて見ないほど穏やかに笑んでいた。こればかり困惑のためだ、マクスにはわからない。娘たちの、どちらか、あるいは両方が言った。
「神子守の儀が執り行われたのです」
記憶がたとえ衰えても、老人の思考は明晰だった。ふと霜柱をさする皺な手には、夏をひかえて手袋がなかった。
「そ、それで……!彼は。彼が、やり遂げたんだね……?」
「ええ。神子の守手と成って、旅立たれました」「はい。聖国へ、フランお嬢様と」
聖国ときいて、やっと閃く。"手紙"を届けたではないか。「サン・イージス」と口にしたあの朝。ぱっとはじけた少年の笑顔。
マクスは、とたんに快くなった。
――彼はみずから籠を破ったのだ。あの小さな手で。
羽ばたけたのなら、どうとでもなる。彼になら、どうとでもできる。たとえ試練の役目だとして、幸せをきっとつかむだろう。
マクスはしかし寂寥にも襲われる――二度となかろうな。取り引きも、世間話も……。
どちらであったか、娘がいった。
「楽しみにされてたんですね。彼と会うの」
「……ああ、そうとも。彼と会うだけが楽しみだった。決まって、彼はくれたんだ。この老いぼれがいてよかったと思える、きらりと光る何かをね」
娘たちは、さぞかし気の毒そうにした。顔色をうかがっては、たそがれどきの肩をさすった。やさしい娘たちだった。
「道々便りをくださいますよ」「そうです。いつかかならず、元気の便りを」
「……便りか。そうだね、ふふ。そうだとうれしいな」
聡くとも、文字は書けない少年だった。
けれど、ささやかな希望はあっていい。急がずともよい。永遠に来ない、たよりであろうと、構わない。忘却か火か、いずれすべてを飲み込んでくれる。
「いやなに、悪かったね。"育て屋"の君たちに……」
「いいんです」「私たちにも、彼は気がかりでした」
「なに……?」
「頼ってくれた頃もあったんです」「でも、いつからか避けられてしまって……」
「……ああ、君たちだったのか」
どうしようもなく相容れない人の数だけ、またその逆もいるものだ。だから目をつぶってはならない。どれほど老いても。
「いずれ……またいずれ、思い出話をさせてほしい。僕が覚えていられれば」
「もちろんです」「忘れませんよ、私たちが」
満足だった。広場に増えだす人目を思って、老人は居ずまいをあらためる。しゃがれたのどをならしては、あたかも商人らしくふるまった。
「さて!よぅく見てってくれ、今朝の荷台は張り切ったんだ。そうそう、可愛い柄の生地も入ってる。もちろん、僕がそう思ったのさ?はは、お嬢さんたちも気に入るといいが」
責務を果たしてきた"商人"だから、迫るふちからたもたれるのだ。火の神の加護は、たしかにあった。思わぬかたちで届くだろう、手紙をよむたび忘れはしない。あの朝に見た、少年の笑顔を。
マクス・シローネ。"老商人"にも名前があった。綴りまでゼンが知れるのは、火の神子づでにきいてからになる。
だから肩書き、それで構わない。つたない文字に込められた真価を、老人と少年だけが知っている。
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火の神の村の商人さんへ
品物、用意してくださっていれば、購入できずにすみません。
わけあって、村をでたので、こんご取引できなくなってしまいました。
たんぽのお塩はいただきます。友達が、おいしな料理をつくってくれます。
商人さんと、お話するの、いつもとても楽しみでした。
お会いできなくて、残念です。いつかまた、会いましょう。
わたしは元気です。商人さんも、ずっとお元気で。
ゼン・イージス




