26話 ドクターの過去にまつわるあれのあれ
「前方にエネルギー反応! エレちゃん、至急離脱します!」
「えっ」
いきなり閃光が弾け、吹っ飛ぶ実験室。
ヒナギクさんの判断ですぐに窓から離れたため、ボクたちは無事でした。
研究施設だけあって建物自体は大丈夫そうですが、室内は木っ端微塵です。机やシンクがわずかに形を残すだけで、棚にはいっていた器具や書類は跡形もなく灰になっています。
中にはアララギさん他、何名か研究員がいたはず。大丈夫でしょうか?
敵とはいえ目の前で大怪我でもされると、カチコミにきた以上は責任を感じるのです。
しばらく様子見していると、煙がもうもうと籠もってる中で人影が動きました。破壊された部屋のど真ん中に立っていたのは──
「ふっ、ふふふふ、ははははは! バカめ!! この私がおとなしく渡すと思ったか!!」
Dr.ヒラガ!!!
なんと、爆風の中からDr.ヒラガが現れました!!
せっかくキメキメだった服と髪がまる焦げで、本人も爆発に巻き込まれてる気がしますが触れないでおきましょう。
「この天才発明家・ヒラガの研究成果は絶対に誰にも渡すものか! 私の発明品……いや、この世のすべては、私自身の手で破壊するためにあるのだ!!」
RPGのラスボスみたいなこと言ってますよ。かっけえ。
ドクターに続き、研究員の人たちがうめきながら煙の中から姿を現しました。
「……いったいなんなの? 源介さん、これはどういうこと?」
アララギさんは無事みたいですし、怪我人もいなかったようです。
じゃあよし!
「完成した物を放っておくと5秒で軽い動悸、5分で発作、1時間で意識混濁、1日も経てば世界中の物を破壊したくなるのだ。もうセメダイーン投入から3時間は経過したからな。限界だ。ここに持ってくる前、あらかじめ薬に別の物質を混ぜると爆発する細工をしておいた」
ドクターがおとなしく言うことを聞くなんておかしいとは思っていましたが、渡した薬品に罠をしかけていたんですね。
というか今まで明らかにされてなかったドクターの破壊衝動、そういうシステムだったんですか。だいたいにおいて初期症状レベルで破壊してた気もしますが。
あ、ヒナギクさん、今片手でさりげなくガッツポーズしました!?
ボクたち完全に悪者ですよ、これ。
「私の完成品は、ヒナギクだけで充分だ」
「……!!」
あらら、天然でしょうか。
すげー発言したような気がします。
その言葉を聞いたヒナギクさんは──
わぁ、ニンゲンですらむずかしそうな、なんとも複雑な表情をしていらっしゃいますね。
頬を真っ赤にして恥ずかしがりながらも、ものすごいドヤ顔を晒してます。
とりあえず喜んでるっぽいので、なによりなのです。
「また……また繰り返すの? その才能を、どうして人々のために使えないの?」
おっと、なんだかシリアスな雰囲気になってきました。
アララギさんが真剣な顔でドクターを問い詰めています。
「ヒナギクさん、おふたりはなんの話をしているんでしょう?」
「さきほどエレちゃんにも説明した、ゲンスケさんの日記に書いていた件だと思われます」
そういえば、日記がどうとか言ってましたね。
アイス食べてて聞いていなかったとは言いにくいので、なんとなく合わせておきましょう。
「あーあーあー、あれですね。ドクターのあれがあれのあれで」
「はい。ゲンスケさんの過去にまつわるあれのあれです。とても悲しい、あれでした」
よし、うまいこと解説的回想がはじまった。
「ゲンスケさんが大学を卒業後、製薬開発の研究所に就職したのは──お母さまが治療法が確立されていない難病を患っていたからでした」
「え……。お母さん? ドクターにはお母さんがいたんですか」
そりゃ、ホムンクルスでもアンドロイドでもなければいるでしょうが。
ずっとぼっちなのかと勝手に思っていました。
「お父さまはずっと昔に亡くなられ、子供のころはお母さまとふたりであの屋敷に暮らしていたそうです。でも、長いあいだ病気で入院されていて……。この施設に入所してわずか1年、ゲンスケさんは天才的頭脳によって難病の特効薬を発見しました」
それ、自分で日記に書いてたんですか。天才的頭脳って。べつにいいですけど。
いやそんなことより、研究所の人たちに発明品を奪われたと言っていましたが……。
お母さんのために開発した薬のことだったのですね。
だから今日、新たに不治の病の治療薬なんてスゴイものを発明したのに、ずっとテンションが低かった理由は──
思い出していたのでしょうか。そのときのことを。




