25話 人生で一度はやってみたいはっちゃけた転職です
「自分から持ってくるなんてえらいじゃない、源介さん。今日は汚い和服じゃないのね。治療薬の完成品はどこ?」
「ん」
「何よ、コンビニのビニール袋なんかに入れて。まあいいわ、中身が本物か調べてくるから研究室にいて頂戴。場所はあなたがいた頃と同じよ。懐かしいでしょ?」
ヒッ!
Dr.ヒラガがちゃんとした服装をしています!
スーツと白衣なんて持ってたんですね。昔働いてたときのヤツでしょうか。パリッとアイロンがかかってます。
しかも、お風呂まで入ってますよ。髪がクモの巣じゃないです。あんなにいい匂いがしそうなドクターを初めて見たのです。
なんでこんなにキメキメでやってきたんでしょうか。
まさかアララギさんに未練があって、かっこよくしてきたとか……。
あ、まずい。
そうっと隣の様子を窺うと──
「むー…………jkぁqmy」
ヒナギクさん、やっぱり嫉妬してる!
最後ちょっと言語機能がバグるくらいには嫉妬してます。
ダイナマイトの被爆にも耐えられる高性能人工スキンの頬が赤くなってますよ。
***
ボクたちがアララギさんの後を追って一階まで下りると、エントランスでDr.ヒラガが待っていました。
その光景を壁の角からこっそり盗み見していたというわけです。
入口にビルの名前がありますね。『千葉ニュータウン新薬開発所』だそうです。
ヒナギクさんが襲撃なんて言い出したせいで悪の組織みたいなイメージを抱いてましたが、もしかしてすごくちゃんとした研究所なのでは……。
つまり、ここに所属していたってことはドクターって薬品開発の研究者だったんですか。
意外です。めちゃくちゃマトモです。
もうちょっとトンデモ科学的な怪しい施設かと……。少なくとも軍事工学とか物理化学とか、爆弾を作る技術に関連しそうな分野だと勝手に思ってました。
なんで破壊専門の発明家になっちゃったんでしょう。勇者から突然遊び人になるくらいはっちゃけた転職だと思うのですが。
そうだ、家に帰ったらドクターにゲームを作ってもらおうっと。せっかくニンゲン型になったんだし、RPGってヤツで遊んでみたいんですよね、ボク。今度こそ念願のサンダー系魔法を撃ってみせます。ゲーム内で。
お、ふたりが動きました。
Dr.ヒラガはエレベーターに乗って、7階で停まりましたね。案内板によるとバイオテクノロジー部門という階で降りたみたいです。
アララギさんはそれを見届けてから、3階の実験室って場所に行きました。
「ヒナギクさん、どっちを追いますか?」
「kyb@w……アララギさんにしましょう。ゲンスケさんは待機するだけのようですし、のちほどまた落ち合うと思いますのでy」
まだバグってたんですか。
「ではまたボクを抱っこしてください。急上昇キモチワルイですけど。ネコ型のときは上下運動なんてぜんぜん平気だったのに、ニンゲンは三半規管が弱いのです」
エレベーターで移動すると見つかっちゃいますので、一階に下りたときと同じくヒナギクさんのジェット機で外から三階に上がります。
窓から中を覗くと、いかにも実験室といった雰囲気の広い部屋が見えました。
アララギさんはビニール袋から取り出したドクターの薬(セメダイーン入り)を顕微鏡で眺めて、中身を確認しているみたいです。
「……すごいわ。どうやってこの物質を生みだしたのかしら。化学というより、まるで魔術。Dr.平賀源介──どうしようもない変態で危険人物だけど、天才に間違いはないわね。まさに宝の持ち腐れって言葉がぴったり。天才の作った薬を飲んで、あの頭脳が手に入ればいいのに」
むむむ。他人に身内の悪口を言われるのって、あまり気分がよくないのです。
ボクがドクターに変態とか危険人物とか変人とか非モテとか言うのはぜんぜんいいんですけどー!
よそのニンゲンに言われるのは無性に腹が立ちます!
ヒナギクさんも同じ気持ちだったようで、人工スキンを真っ赤にしてムッとしてます。
ずいぶんと感情表現が豊かになりましたよね。
だいたいその薬、セメダイーンで完成したんですよ。コンビニの袋も購入時のものですし。
ついでにもうひとつ言うと、ボクの新しい肉体を錬成するときの副産物なので原材料はハーブとニンゲンの糞と精液ですよ。ホムンクルスですから。
それでも構わなければどうぞお飲みくださいね! プンスカ。
「ほとんど完成品に見えるけれど、まずは化学構造を精査しないと。それから同成分の物質を量産して有効性、安全性を確認するために非臨床試験に移りましょう」
アララギさんが部下に指示を出しはじめた、そのときでした。
「エレちゃん、前方13時の方角に高エネルギー反応を確認! 爆破までの残り時間は約2.378秒、至急離脱します!」
「えっ」




