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18話 名前をつけてやる

 襖の隙間から覗くニャオちゅ〜る。

 これは、あきらかに罠の香りが……。


 ふふん、こんなにわかりやすい仕掛けに引っかかると思ったのでしょうか。いくらボクがネコ型ホムンクルスだからって、そこらのネコといっしょにされては困ります。


 たかだかニャオちゅ〜る如きで……。

 あのジューシーな中にも爽やかな味わい、食感はスープの柔らかさを生かしつつ満足感のある食べごたえ、それでいてノドごしは滑らかなニャオちゅ〜る如きで……



「つーかーまーえーたー」

「あああああああ、しまったーー!?」



 気がついたら、食べてました!

 CMのモデルネコの如くペロペロしていました!

 恐るべし……こんな恐ろしいものを開発するなんて、次の爆破対象はニャオ本社にするべきじゃ……!?


 いや、食べられなくなるのは困るから、やっぱりやめましょう。



 ***



「なあんだ、ドクターじゃないですか。ふつうに呼んでくださいよ〜」


 襖の向こうで対ボク用の罠を仕掛けていた犯人は、ご主人様のDr.ヒラガでした。

 予定外のボーナスオヤツをもらえたから、べつにいいんですけどね。


「たいした用事ではないのだが……。その、なんだ、助手に聞きたいことがある」


 周囲を確認しながらソワソワして、いつもとはベクトルの違う挙動不審さです。

 ボクに相談事があるってことでしょうか?


「あれだ。あれの名前のことだ……」

「KJ001号ですか? つけてやるって言ってましたもんね」

「まあ、なんだ、型番では長いし、呼びにくいからな」


 またまた、照れちゃってー。

 ニンゲンが名前をつけるのは、愛着の証だそうですよ?


「候補をいくつか考えたのだが、どんな名なら喜ぶのかいまいちわからん。判定してくれ」


 なんと。

 人の気持ちがわからないドクターが、『自分は人の気持ちがわからないという事実』に気づくなんてものすごい進歩なのです!


 そういうことなら、もちろん協力しますよ!

 女性ですし、綺麗だったり可愛かったり、ステキな名前がいいですよね!


「では第一候補」

「はい!」

「デーモンコア、はどうだ」


 ああ、世界一危険な実験と言われ、科学者を恐怖の底に沈めた悪魔の球体──


「却下で」

「なぜだ!?」

「もっと可愛らしい響きの名前にしましょうよ〜。デーモンの音がちょっといかついですよ?」

「むむ、そうか」


 響きの問題でもないですが、ここはさらっと流しておきましょう。


「音の響きか、よし。第二候補」

「はい」

「マンチニール、ならどうだ」


 ふむふむ、今度は世界一危険な植物と言われる熱帯地方の樹ですね。一見リンゴのような実を食べたら最後、口腔内が焼けるような痛みに襲われ悶絶し──


「却下です!!」

「なぜだ、響きはなかなかの『カワイイ〜』だっただろうが!」

「逆になんで危険物の名前ばっかりつけようとするんですか!!」

「私の好きなものから探しただけだ!」


 好きなもの、好きなものねぇ……。

 そう言われると、無下にもできないというか……。いやでも、デーモンコアなんて名前のひとといっしょに暮らしたら毎日冷や汗出そうなんで、やっぱり却下です。


 せっかくだからドクターが自分でつけたほうがいいと思って聞いてましたが、ボキャブラリーが『世界の危険物辞典』みたいなサブカル本に載ってそうなのばかりで先行き不安になってきました。

 

「う〜ん。もう、フネさんでいいのでは?」

「それでは日曜日の有名アニメキャラが浮かぶではないか」

 

 まさにその有名アニメキャラを浮かべて提案したんですけど。

 あの格好、フネさんをリスペクトしてるのだとばかり思ってました。


「そうだ。『KJ』の由来になった『瀬川菊之丞(せがわきくのじょう)』から考えてみたらどうです? お菊さんとか」

「ふうむ、菊之丞……菊……」

「見た目のとおり洋風にしてデイジーとか」

「むむむ……」


 真剣に考え始めたようです。

 このあたりから連想すれば、まあ危険物よりはひどい感じにならないでしょう。

 さすが優秀な助手、ボクはいつでも影の功労者なのです。



「……よし、決めた」



 膝をぽんと叩いて、ドクターはKJ001号を探しに行きました。

 面白そう……じゃなかった心配なので、ボクもついていってみることにします。



 彼女は門の前で、集まったご近所のみなさんに捕まっていました。


「テレビ見たわよ! すごいのねぇ、ヒラガの奥さん。伊達に変な羽ついてないわねぇ」

「すげー、KAPPOGIウーマンだ! 本物だ!」


 奥様やらお子様に囲まれ、大人気なのです。


「KAPPOGIウーマンではありません。わたくしの正式名称はKJ──」

「"ヒナギク"だ」

「え?」


 いきなり背後に現れたドクターの声に、『最強の破壊兵器』は驚いた顔で振り返ります。そんな顔もできるんですね。



「そいつの──いや、おまえの名前はヒナギクだ」

「は、はい。わたくしの名前、インプットいたしました。ドクター」



 近所のお子様が割烹着のすそを引っ張ります。


「昨日、強くてかっこよかった。ヒナギクおねえちゃん」

「はい。ありがとうございます。わたくしは最強のアンドロイド、ヒナギクです」


 いい笑顔ですねぇ。

 KJ……じゃなかった、ヒナギクさんはボクがここまで育てたと言っても過言ではないので、感動もひとしおなのです。



「助手よ、おまえは"エレキテル"だ」



──はい? 今、さらっとなんか言いました?



「おまえはエレキテルだ、と言ったんだ」

「それって、どういう意味ですか?」

「エレキテルは平賀源内が修理・復元した静電気発生装置のことで──」


 意味は知ってますけどー!

 ボク、脳に優秀なデータベースあるんでー!

 そうじゃなくて!


「天才である私の初修理記念だ。おまえにも名前をつけてやる」


 エレキテル。

 ボクの名前ですか。


「では、エレちゃんですね。今後とも変わらぬご愛顧をよろしくお願いいたします」


 ええっと。

 ええっと。


 こちらこそ、日頃は格別のご高配を賜りですね……。

 とにかく、明日からも改めて、よろしくお願いしますですよ?

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