17話 「ありがとう」と言ったのか?
ボクたちは倒れてしまったKJ001号を、造ったときと同じ広間へ運びました。
「ドクター! 人工知能部分まで壊れてしまったら、記憶や経験を失って前とは違うKJ001号になってしまいます! はやく直してください!」
「直す……直すだと……!?」
手に電動ドリルを握りしめたまま、Dr.ヒラガは畳の上を行ったり来たりうろうろしています。
「も~、なにを迷ってるんですか! いつも自分で天才って自称してるんだから、こんなときくらい自慢のハイテクでしゅぱぱっと直してください!」
「わ、私は造るのと壊すのが専門なのだ! 生まれてこの方、修理なぞしたことはない!!」
えええ。
なんという偏った発明家!!
***
造れるなら、直せるはず。
と、ボクは思ってたのですが……。
ドクターの場合は『破壊衝動』の奇病を患ってるせいで、そう簡単でもないみたいです。
たぶん、心の問題というやつでしょうね。
今まで"壊す"ことばっかり考えてたから、"直す"となると躊躇してしまうようで。
「くそぅ……直すだと……。しかし、もし修理できたとしてもだ……」
「としても?」
「完了した途端、壊したくなる」
病み上がりのひとに鞭打つ行為はちょっと……。
んんん、でも、ドクターがそれをためらってるってことは。
ちょっとは、KJ001号を壊したくない気持ちがあるんですね?
うちのご主人様は難儀な性分ですよ、まったくもう。
「ドクター」
「なんだ、助手よ」
「大丈夫です。完璧に直してしまえば平気です! 兵器だけに平気ですよ! なんといっても彼女は……『絶対防御システム』が備わった最強のアンドロイドですから! 簡単に壊れたりするはずありません。今までさんざん敗北してきたじゃあないですか?」
「うぐぐぐ、どうなっても知らんぞ!!」
──
────
そして、次の日の朝になりました。
「……修理完了だ」
「ドクター! やりましたね! KJ001号はちゃんと元どおりですか!?」
「ぐぐぐ、この完璧な仕上がり……! 壊さずにはいられない!!」
ドクターがこうなるってことはつまり、直ったんですね!?
「うおお、くらえロケットランチャー!!」
でた! DVヒラガ(ドメスティック・バイオレンスヒラガ)!!
弾が直撃し、爆音と煙で充満した広間の中心に立っていたのは……
「──絶対防御システム発動中。全方位に防御装置を展開。最高責任者であるDr.ヒラガ、助手さん、家屋の安全を保障します。安心して演習を継続してください」
KJ001号ーー!! 帰ってきました!!
「おかえりなさいなのです!!」
「演習ではないというのに……」
言い返す口調にいつもみたいな勢いがないですよ、ドクター。
照れくさいんでしょうか。
「全機能回復、再起動いたしました。ドクター、ありがとうございます」
「……は? 今、ありがとうと言ったのか? なんだ、それは」
「日本語で感謝の気持ちをあらわす言葉です」
「そんなことはわかっている!」
おやまあ。まさか、お礼を言われたことないんでしょうか。
造って壊すか、とりあえず壊すか、どっちかしか経験がなかったのなら当然かもしれませんが。
「……ふん。まあ、あれだ、あの時間差爆破装置で地球を破壊してしまっては、自分で壊した感が薄いからな。今回は遂行に至らなくて正解だった。褒めてやる」
素直じゃないんだから。
でも、めずらしく達成感のあるいい顔をしてますねぇ。
「むむ……そうだ。なにか、褒美をやってもいい。欲しいものはあるか」
「では……」
いらないと答えるかと思ったのですが、意外なことにKJ001号は考え込んでいます。欲しいものがあるんでしょうか?
「わたくしは、圧力鍋のアタッチメントが欲しいです」
アタッチメントである必要は!?
むしろ不便じゃないですか。せっかく火を消して放置したままお料理を煮込めるのが圧力鍋なのに、腕から生えてたら不便じゃないですか!
まあ本人がいいならいいんですけど!
「そのくらいのものなら一日でできる。いいだろう」
出た、無駄な天才スキル!
ドクターの奇病が『鍋を造りたくなるだけの衝動』だったら世界はもっと平和だったし、我が家の家計も潤っていたかもしれません。
「あとは……」
「それで充分です、ドクター」
「いいや、私が……おまえにだな……」
なにか、あげたいものがあるんですか?
誘導尋問みたいな聞きかたしないで、最初からそう言えばいいのにー。
まどろっこしいですけど、口を挟むのも無粋なのでボクは可愛いオブジェと化して見守ってますよ、さっきから。
「おまえに……」
「はい、なんでしょう」
「おまえに名前をつけてやる!」
それだけ言い残して、ドクターは自分の部屋へと走り去っていきました。
これは……
なんですか……
春の予感、というやつでしょうか。もうすぐ冬ですけど……。
KJ001号もあっけにとられたのか、ポカーンとした表情でドクターの去った方向を眺めています。
そして、思い出したようにボクのほうを振り返って──
「ときに、お願いしていた洗濯物は取り込んでもらえましたか?」
……忘れてた!
ボクは今ただの可愛いオブジェですので、そこんとこよろしくお願いします。




