19話 そう、ボクはネコ型ホムンクルス
「おはようございます、ヒナギクさん」
「はい、おはようございます。エレちゃん」
エレちゃん、エレキテル。ネコ型ホムンクルスのエレキテル。
ボクの初めての名前です。なんだか、むず痒いですねぇ。
「しっくりきませんか?」
と、ヒナギクさんは心配そうにこちらを見ています。
そういうわけでもないのですが……まだ慣れなくて、少しもどかしいだけなのです。
例えるならそう、ものすごく眠くて丸くなってるときに、目の前でねこじゃらしを振られているような気分です。
あ、ニンゲン型のヒナギクさんには伝わりませんね、この例え。
でもせっかくつけてもらったんですから、ボクのほうからもっと名前に寄せていってもいいのかもしれません。『名は体を表す』とも言いますしね。
***
「ドクター! お願いがあります!」
Dr.ヒラガの部屋の襖を前脚で開けると、なにやらコソコソ爆弾を造っているところでした。
「なっなんだ!? 地球を破壊できるほどの威力はないぞ!? ちょこっと千葉あたりを爆発しようかと思っただけだ!」
なぜ千葉に執念を燃やすのです。
いや、でも今ちょっと焦ってましたね?
爆弾を隠そうとしてましたよね。
まさか、破壊行為に罪悪感が芽生えてきたんでしょうか?
それはそれは。
とっても良いことなんですが、きれいなドクターが目覚める前に、ボクに破壊的機能をつけてほしいのです!
「──電気が出るように改造してほしい? なにを言っているのだ、助手……いや、エレキテル」
「それ、それですよ! その名前です。せっかくつけてもらったのに、名前負けはしたくないのです。エレキテルは電気発生装置でしょう。というわけで、ボクにも電気を発生させる系統の必殺技が必要な気がしてきました」
「必殺技……」
肉球から電気がびりびり出たら可愛くないですか?
肩に乗せて旅に出たくなったり、実写映画化したくなったりしませんか?
「ふうむ。アンドロイドならば、スタンガンのアタッチメントを追加するだけで簡単なのだが。おまえはホムンクルスだからなかなか大変だぞ」
「むむむ、やはりそうですか……」
アンドロイドとホムンクルス。
どちらもだいたいの意味合いは"人造人間"です。では、なぜドクターが呼び分けているかというと──
ヒナギクさんは科学技術を使ったロボの一種ですが、ボクは錬金術で造られているのです。つまり製造方法の違いですね。
「錬金術は私の専門ではないのだが、遊んでいたらエレキテルができてしまった。まあ、あれは自然科学の元祖なのだ。研究して損はない。たまに金を錬成して発明費用の足しにしている」
我が家の家計にそんな秘密が!?
「今更な感じですけど、それ大丈夫ですか? 合法ですか?」
「私が私の技術で生み出したものを売って何が悪い! ソフトウェア開発と同じだ! それに、正規のルートでさばけないから少量だぞ!」
そう言われたらビル・ゲイツと同列にしてもいい雰囲気があるような、ないような。どこか違う気がするのは、働いてない感でしょうか。イメージって大事ですね。
「で、ボクも必殺技が出せるようになりますか?」
「ヒナギクと違って、おまえは腕をもいだら死ぬからな。しかし方法はある。試してみるか」
と、ドクターは棚からフラスコを取り出しました。
そうそう、ボクはこの小さなガラスの容器から生まれたのでした。
「ホムンクルスの原料は、ハーブと人間の糞、そして精液……。それらを40日間かけて腐らせて……」
知ってます。
ウィッキペディアにも載ってるので知ってます。
あまり思い出さないようにしてたボクの原料なので、改めて口に出さないでもらっていいですか。出どころとかつっこみませんから!
「電気を発する肉体を再錬成して、中身をそのままに今のネコ型外装と入れ替える。上手くいくかはわからんが」
ということは、最低でも40日間はかかるということですねぇ。
そんなに待ったらボクも飽きちゃうかもです。今日のテンションによる思いつきだし。
しかたないから一旦忘れて、気長に待つとしますか~。
「エレキテル。代わりといってはなんだが、新しい外装ができるまでこれでガマンしろ」
そう言ってドクターは鈴付きの首輪をパパッと造り、ボクに着けてくれました。
「ドクター、これって……」
「通電首輪だ。刺激を与えれば電気が流れるようになっている」
ホームセンターとかに売ってる、犬用の無駄吠え防止首輪じゃないですか!! ボクはこういうの、あんまり良くないとおーもいーますー!
あと、思ってたのとだいぶかけ離れてますからね!




